中学の同級生でSという男がいる。お互い結婚生活が40年を過ぎ、子供も自立して向かい合う夫婦状態。彼は元々酒問屋の倅で東区では大金持ちであったらしい。父親は毎日ススキノ通いで午前様で羽振りがいい。息子はアルコールは筆者より弱く(相当に弱い)ビールはジョッキー半分で寝てしまう。勉強もできるおぼつちやん。ゲレンデスキーもたしなみ、荒井山へ通っていたが、国立大学入試直前、スキーで骨折。試験前に回復せず大学進学を諦めた。浪人すればどこでも行ける成績だったのに、これを機会に父親が家業を長男の彼に譲り渡した。
酒以外にお茶の卸もしていて、彼の自宅に行くとお茶の香りのする銀箱がたくさんあって、箱に入って遊んだものである。そういうときに現れるクラスメートの女の子。美男の彼にずっと惚れてきた現在の奥さんの強接近が稔ってゴールイン。羨ましい。クラス会はいつも夫婦で出てくる、これってけっこうキツイかも。思う存分、遠慮ない会話にブレーキをかけることもあるらしい。その彼も55歳くらいに酒問屋を弟に譲った。今も東区で健在だ。
そして彼は牛乳配達を始めた。聞くと100戸分を請け負っている(需要があるんだ)毎朝4時には自宅を出て牛乳瓶を空き瓶と交換する仕事をして休みがない。午前中、少し寝るときがあるが、昼過ぎには弁当作りのアルバイトをしている奥さんを迎えに行く仕事もある。そしてこれからが彼の趣味の時間、ボディービルだ。彼の居間に通されたとき『見てくれ、これっ』と盾を出した。ボディービルシニア部門優勝だ。『これまで2位ばかりでなんとか優勝したかったんだ。参加者は3人なんだけど』『凄いね、信じられない』
『ところが、最近妻からいい加減にボディビル止めなさいと禁止令が出て、ケンカさ。ボディービルは俺のアイデンティだから止めるわけにいかない』しかし、彼も私と同じ心筋梗塞で倒れてステントを4本血管に入れているから、主治医からもストップがかかっていた。酒のまず、タバコ飲まず、二人の子供を無事育て終えて、孫に囲まれても数百円を出して西区の体育館でバーベルを上げて胸や両肩、お腹の筋肉を鍛えている。自分には全くない道を求める行為の繰り返し。彼の胸を見ると同じ年齢とは思えない、胸の割れ方。しかし、いっしょに歩くと前かがみで背を丸めて歩く。強直・誠実を絵にかいたような男である。いいやつだ。とはいええ、中学時代のおぼっちゃん面影は残る。お人よし。
