私たちは知っていることしか見えない(福岡伸一)

ある日、福岡先生が生命化学の授業で、細胞を顕微鏡で100倍200倍程度で、ネズミの臓器、すい臓や肝臓をスライシして、それを生徒にスケッチさせる授業をしたら、同じものを見ているのに、出来上がりは、まるでクレヨンを初めて握った幼児のような出来上がりであった。


先生は、細胞核はここに見えて、すい臓の細胞はくっくり見えているのにと歯がゆく思ったが、「待てよ、かつての私も顕微鏡の下の細胞を詳しく見れなかったことを思い出して」「私たちは知っていることしか見えない」ということに思い至る。私は知っているから見えるという視点は、同じニュースを見ていても、ひとりひとり見ているところや考えてることは全然違うことでもある。


リンゴは熟すれば地面に落ちることは何千万人も見ていたけど、万有引力を見つけたのはニュートン。わかりやすい例かもしれない。発見が一日遅れて、急性心筋梗塞で50%の確立で死を宣告された私であったが、考えてみれば数年前から「加齢臭」を指摘されてきた。酸っぱい匂いで、人間の体で炭水化物が分解されてブドウ糖になるまでの様々な過程で、必ず酸素を使用する。血中の酸素が不足するとブドウ糖まで進展せず、リンゴ酸で止まってしまい、それが酸っぱい臭いの加齢臭をもたらすと勉強した。


さらに目の下に大きな隈ができて、顔全体も黒々としてきた。それは、発病後、近所の奥さんが指摘してきた。(そういえば旦那さんの顔は元々黒かったのかな・・と疑問に思っていたと)。肝臓が悪いと黄土色になるし、腎臓は土色になるのに似ている。顔に出ていたのに、それを知らずにほったらかしであった。サラリーマンの「俺がいないと仕事ははかどらない」という根拠のないプライドが邪魔をした。


毎日、私の顔を見ている妻でさえ全然、言われるまでは気づかない。学んだのは「病気は恐ろしいほど顔の表面に実は出ているものだ」。精神科の病気も少し勉強したので(実際、私はパニック障害で飛行機や混雑電車に乗れない)、うつ病や二極性障害(躁鬱)、対人恐怖の強い人、など簡単な診断はできるようになった。決め手は顔と表情だ。それもこれも福岡伸一さんの「私たちは知っていることしか見えない」の延長である。


私の心筋梗塞の前兆も実は知る人が見れば、もっと早くに循環器で調べられたし、動脈内の酸素濃度、心臓CT、カテーテル検査で早期に治療できて、3ヶ月間の休職をしないで済んだ。ポイントは知る人が見れば見えるというところで、人間界のたくさんの事象でも、あらゆる分野に精通してるついる人はほとんどいない。政治でも経済でも哲学においても歴史を勘案して語れる人、次のステップを予測できる人がいない。


しかし、解決は一つある。素人の感や印象で筆者に「顔が黒いよ、どうしたの?病院へ行ったら?」と率直に言える人か、子供が「おじさん、病気でないの?」といわれることかもしれない。「変な臭いがするよ」がガス漏れの兆候だったり、「暗い雰囲気の会社だね」が翌年倒産したり、印象や勘が当たる場合も多い。


知る+実感でいかないといまの時代は乗り切れない気がする私だ。毎日の勉強が大変である。