20代半ばに読んだカミュの『ペスト』。作品発表は1947年なので73年前に書かれた。架空の町オランは発生したペストで町は完全閉鎖、次々に起きる住民のペスト死とそれと戦う医師リウーと仲間たちの物語だ。オランは地中海に面しているアルジェリアの架空の町。1匹、2匹とネズミの死骸が街中に出てきて、それが人間に伝染して死を招く。肺をやられる肺ペストとリンパにできる腺ペストがあるが、医師リウーはフランス本国に血清を大量に求めたり、足りない医師や補助員を要請するが間に合わない。そのうち1日で100人を超える死者が出る日もある、自身の健康さえ危うい中を命がけで戦うリウー医師と町の保健所の無能な働きに業を煮やし、奉仕隊を作り、各戸を周り、患者カード作りに淡々と励むタルーとグラン。彼らとの友情物語でもある。

タルー『このペストはあなたにとって果たしてどいうものになるか』

医師リウー『際限なく続く敗北です』(188p)

しかし、その後

医師リウー『ペストと戦う唯一の方法は、誠実さということです。…誠実さっていうのは僕の場合には、つまり自分の職責を果たすことだと心得ています』(245P)*映画『鬼滅の刃』の煉獄の言葉と重なる。柱の心得

街に閉じ込められた新聞記者ランベールは、恋人をパリに残して何とかオランの町から脱出し恋の成就を図ろうとするが、厳重な閉鎖都市を金の力で突破できるかどうか。

どこでもありがちなキリスト教会でのパヌルー神父の日曜説教『皆さん、あなた方は禍(わざわい)のなかにいます。皆さん、それは当然の報いなのであります』(137p)『今日、ペストがあなたがたがたにかかわりを持つようになったとすれば、それはすなわち反省すべき時がきたのであります。』(138p)どこかで聞いたようなセリフだ。アメリカはじめキリスト教国でリピートされそうな演説だ。ペストは旧約聖書のモーセの出エジプト記にも出て来るから、疫病(ウィルス禍)の記録は古い。モーセの時代は紀元前13世紀なので3400年前からウィルスに苦しめられ、私たちはいまも苦しめられているわけだ。しかし、人類は文字のない時代の方が長いことを忘れてはいけないから、伝染病で命を落とした数は数えきれない。

こういう描写があったので最後に書き留めておきます。街中を走る電車です。『すべての乗客は、できうるかぎりの範囲で背を向けあって、互いに伝染を避けようとしているのである。停留所で、電車が積んできた一団の男女を吐き出すと、彼らは遠ざかり一人になろうとして大急ぎのていである。頻繁に、ただの不機嫌だけに原因する喧嘩が起こり、この不機嫌は慢性的なものになってきた』(174p)

私自身もどこかですでにコロナに感染している可能性も否定できない。単に症状がでていないだけかもしれない。ウィルスとはそういうものである。

新潮文庫(宮崎嶺雄訳)『ペスト』より。

    • まったくです。ただ違うのは医学の進化ですが、これとて到底ウィルスの変幻自在には叶いません。ウィルスが発見されたのが19世紀後半ですから、形をとらえたのが電子顕微鏡。人類史はウィルスの海の中で泳いできた歴史に見えます。99%は悪さをしないウィルスです。人体にも莫大なウィルスを住まわせているから食べ物を消化したりできるのですね。ウィルスがなければ酸素も作られず、そもそも生物が生きる環境ができたかどうか?人間、お互い、伝染させないよう離れて暮らす、密着プレー禁止でしょうか?対人恐怖症やパソコンやメールで生きる人にとっては生きやすい環境かもしれません。アナログ世代には相当にきつくアチコチで暴言を吐いているイライラ老人増えてます。

  1. あたふたとした役所の対応も後手後手でさっぱり要領を得ませんね。かつてのペスト流行時の勉強が足りなかったようですね。責任のなすり合いは何の効果もありません。国だ、自治体だ、誰が、彼が、ではなく、夫々が責任をもって対応するしかありませんね。ヨーロッパ諸国のように緊急時には白黒ハッキリしたほうが良いでしょうね。窮地に立たされても、グレーゾーンの対策で、夫々の個人の考えを尊重?している場合では無いと思いますね。国民、民衆のための本当の意味の民主主義ならば。

    • 結局、決断したときに営業補償を誰が払うかという銭の問題でしかないですよ。市なのか道なのか国なのか。ここを明確にすればいいだけですね。ヨーロッパーは反コロナ政策でデモが続いて右派がドイツでもフランスでも。ここに反イスラムの動きも入って。フランスのマクロンの動きも相当危ない気がします。民主主義の国は、見ていると世界でゼロですね。

  2. 子供の頃には夏休みに川遊びが定番でした。暑い夏の川は最高の自然がくれたクーラーでした。しかし、夏になると必ずと言っていい程、上流の或る村落で決まってチフス等の伝染病が出ました。途端に下流の村落や町は川遊びや鮎釣り禁止になりました。子供達や釣り人は決して川に近づきませんでした。普段は泥んこ遊びの悪ガキ達も伝染病には敏感でしたよ。今の大人達よりはね。

    • 川上でチフス発生ですか?コレラもありましたね。遠い世界の話だと思ってました。私のときはインフルエンザでしたね。学級閉鎖が嬉しくて(休めて)遊べましたね、学校からは出歩かないよう指導が出ますが、誰も守りません。先生自身も守りませんね。

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