大きな穴 デフォー「ペスト」第6回
ペスト患者が増えてくると、必然的に遺体を穴の中に入れて埋めなければならない。一つの教区で大体50~60人の死骸を埋めて土をかけるのであった。当局は遺体を地面から6フィート(約187センチ)以上の深さに埋めよというきつい命令もあって、増え続けるペスト罹患者の死骸を入れる穴がなくなってきた。そこでついに大きな穴を(1か月や2か月は十分間に合うだろう)掘った。しかし、2週間後、遺体は1114人で満杯になってしまった。
デフォーは好奇心の塊であるから、墓堀り人夫と昵懇にもなり、夜間に行って死骸が投げ込まれる光景を見に行く。本来、衆人が穴に近づくことは禁じられていた。理由は伝染するというほかに、死期に近づいた人や精神錯乱に陥った人が自ら穴の中へ身を投じる人も多かったからである。それだから大きな穴の周りに囲みをつくり入れぬようにしたが、隙をみては飛び込んでいった。クリスチャンだろうと苦しさから逃れる最後手段を取るのである。目撃したデフォーは『それこそ、実に陰惨なものであった。口で表現できるようなことではなかった』と。墓堀り人夫たちは、自分たちは仕事だし、危険で命を落とすかもしれないがデフォーは単に好奇心だけで穴に来ている『危ないマネはするな』とアドバイスする。
そのとき、遺体搬入車がやってきて、横に紳士が立っていた。奥さんと子供二人の遺体を最後まで見送りたいとついてきたのだ。大きな穴へ放り込まれる家族を見て、気絶してしまった。人夫たちは紳士を料亭につれてゆき介抱した。大きな穴は『共同墓地』で、貧者も富者も貴族も労働者も性別関係なく等しく投げ込まれる。棺桶など手に入るわけがない。しかし、昔から噂は出るもので、墓堀り人夫たちが、運ばれた遺体に包まれた高給なリネン製の衣を盗んでいるという。デフォーはこの類の話は留保している。ペストの伝染を考えればまずあり得ない話だが・・・。デフォーは自分が冒した危険な行為を反省する。とにかく自分が無事であったことを神に感謝した。
家に着くと、あの紳士の悲しみが蘇り、涙が出てしょうがない。『あの料亭に運ばれた紳士はいまどうしている?』と気にかかり、料亭へ行くと、紳士はいた。デフォーはお店の人たちの親切なのはいいが、死の嵐の中、営業を続ける店に集まる客の柄の悪さに辟易する。乱痴気騒ぎの傍若無人ぶりに、デフォーは恐怖さえ覚える。元気を回復したものの妻子を失った紳士へ『墓穴に飛び込んで天国に妻子といっしょに行けば良いのに、それができんとは君も相当な臆病者だね』と聞くに耐えない悪口を並べたてた。デフォーは彼らに説教を始める。すると今度は自分に食ってかかってきた。『君なんかよりももっと正直な人間が幾人も墓地の厄介になっているというのに、何をノコノコほっつき歩いているんだ』。そしてデフォーは自分よりはるかに善良な人々が亡くなっている事実は認める。そして、しばらくして、罵詈雑言をした3人の連中はペストに罹患して穴の中へ入ったとデフォーは書いているが・・・・・。
注:柄の悪い、態度横柄な、言葉汚い輩が、ネットで攻撃を加える習慣が定着してしまった。昔は閉じられた空間(この場合なら料亭内に限定)の出来事であったのが、ドアに鍵がかからず、どこまでも広がってゆく。そうだから他人を警戒して、自分の本音を明かさないストレスフルな日々を送る人が多くなり、平成晩期うつが増えるのだろうと思う。女性で名刺を出したくない人がこんなに多くなったと最近気づいた。
広告マン。
同業他社ではあるが、長年協力関係にある会社の女性担当者は超ベテランの4~50歳代と思われますが、会社のメールでのやりとりはあるものの携帯電話番号は絶対に教えてくれません。社外業務も多い方なので、業務上で急な連絡を取りたくても連絡が出来ない事も多い。当然ながら仕事以外の連絡などする気はありませんが、何を極度に警戒しているのか?不思議に思うのですが、会社のPHSでも持っていれば助かるのですが?
seto
こういう時代ですから、女性の携帯番号は、会社が取り次いで本人から連絡させるケースもありました。ある会社の名刺には生まれや趣味・大学・本人の写真まで付いている企業もあります。経営者の考え方ですか?
匿名
皮肉な事にコロナ禍で儲かっている業種もあるんですね。それも意外なところに。例えばさっぽろの業者さんでファスナー付き死体袋を製造している会社では全国の自治体からの引き合いが多く製造が間に合わないほどらしいですね。本来検死が必要な事件性の死体用に警察がお得意さんだったようですが。特殊な構造でライバル社も殆ど無いようですね。これに似たコロナ禍で忙しくなった業種は他にもあるでしょうね。
seto
ファスナー付き死体袋ですか。映画に出てくるやつですね。ビニール業界も使用頻度高いので売れてるかもしれません。なんという時代に人類は突入したのだろうと思います。ウィルスは一度終息しても再度やってきますから。小松左京に復活の日があります。日本沈没もあります。左京さんSFって先見の明ありますね。筒井康隆さんも高齢者同士の血みどろの戦いを描いた小説もあります。生々しい。
匿名
死体ばかりを扱っていれば、死体に対する扱いや感情も変化してくるでしょうね。つまり仕事ですからね。職業病はどんな業種にも同じ事が言えると思いますが。
seto
アメリカ映画で「LOBED ONE」が葬儀場で働く人を描いていたのではなかったかな?私が高校生か大学生のとき見たと思うのですが。誰かの小説の映画化だと思います。