アンドリュー・パーカー著 草思社

白内障の右目手術を1月23日にした。「きょうはスマホやパソコン、読書は禁止です。目を酷使しないでせいぜいテレビくらいです」と看護師から注意された。眼科の手術室はきれいだ。2名の医師で一日、10人の手術をする病院。心臓のカテーテルを5回しているから手術室には慣れているが、必ず主治医とスタッフの笑い声と音楽が聞こえてくる。緊張をほぐすために必要な雰囲気づくり。スタッフは4名の女性たち。彼女たちのイタリアンブルーな手術着とピンクのキャップが素晴らしい。後日、聞くと、音楽はすべてK主治医の好きな曲を流していた。全身麻酔の手術なら病室で麻酔を受けるから手術室の風景は見えない。ルイアームストロングの「この素晴らしき世界」も聞こえてきた。チクリと瞬間的に痛かったが、20分で終る。この先生は札幌の山鼻育ちで、子供のころの「さっぽろ祭り」の話をよくしてくれた。中島公園のお化け屋敷やサーカス、夜店など。「おじいちゃんが、なんでも好きなものを買っていいよと言われたことを今でも覚えている」と笑顔で言う。山鼻っておぼっちやんの多い地区で私の育った東区の工場街とは育ちが違うなと思った瞬間だ。何年たっても、自分が育った貧しい町の匂いがいい意味でもついて回る。貧しい人に優しくなる。

看護師から「目を酷使しないで」と言われると、目の持つ機能と日常生活に果たす役割の大きさを再認識する。1月23日24日の大雪でも自由に除雪ができない、動くバランスが悪い。眼帯をつけたままメールを読んだり、ブログのコメントに返信してもキーボードを間違える。知人から義父が最近、失明したが、失明すると認知症が進み、いかに人間は目から多くの情報を仕入れているかと思ったと書いてきた。入力と出力を繰り返すとき、目の働きは、ふだん当たり前としているが実はとんでもなく大きなことなのだと気づく。盲目のピアニスト辻井伸行さんにももちろん感嘆してしまうが。学生のころ、「目は心の窓」を何かの拍子に口にしていた友人を思い出した。疚しい心があるとき目をそらすのもそういうことだ。うなづける話だ。「ちゃんと私の目を見て話しなさい」と言われたこともある。

白内障手術で耳の機能を発見した。朗読を聞くことで目を休めて、娯楽を継続できる。ユーチューブで探すと各種の朗読がある。その中から、松本清張「ゼロの焦点」全5部12時間、聞いた。活字で目を酷使することもなく物語に入っていける。「ゼロの焦点」は金沢と能登半島が舞台なので、地震と重なり辛くなる。

最後に「眼の誕生」という本がある。生物の爆発的な多様性が出た5億4300年前、カンブリア紀について書かれた本だ。5つの目を持った昆虫などカナダの化石群から想像された生物について書かれてある。生命史上、最大の出来事を「眼の誕生」に焦点を当てた本。立ち読みあれ。鳥類や哺乳類は二つの目をどうして持つようになったのか?目のないミミズもいるし、昆虫はたくさんの目を持っている。魚類は2つの目だね。2つ目の魚が陸に上がって肺魚や哺乳生物に進化していったのか。ホモサピエンスの大先祖の話だ。進化論が正しいと思う人ならね。アメリカ人の半分は進化論を信じない福音主義、関係ない話だけど。トランプを支持している人にも多い。

白内障手術から話がカンブリア紀まで飛躍してしまった。眼は違う想像力の羽を広げてくれる。それにしてもありがたい目だ。両目を閉められときそれは私の死だ。

  1. ホランペッター。

    目が見えなくても、耳が聞こえなくても、手が使えなくても、足が無くても生きている人達を見るにつけ、自分は生きているだけでも幸せだと思いますね。多分ですが現在は五体満足でも、そのいずれかが事故や病気などで無くなったとしたら、悲観して死を選ぶかもしれないと。しかしスピーディ・ワンダーにしても、辻井伸行にしても、また一般人でも車椅子生活や手話での会話なども見ると、元気を分けてあげるべき筈の我々の方が逆に勇気や元気を貰いますね。目の不自由なミュージシャンは楽譜も見えませんから読む事も無くすべて耳コピ―での暗譜ですから驚きです。目が見えないが故に聴力が音感発達の原動力になりマイナスがプラスに転じた天才たちですね。恵まれ過ぎていても不満ばかりの贅沢な人間ばかり。彼らに教えられますね。

    • 運転慣れで千歳まで36号を走ってきました。天気のいいのと25日の給料日後で、混んでる国道とイオン。五体満足ながらすさまじい悪をする芸能人もいれば。車いすや耳が聞こえずとも暗記で歌う盲目の歌手もいます。母親がよく「あんなことをしていると罰が当たる」と繰り返し言ってましたね。眼が見えるだけありがたいことです。乙武さんもいますから、なんと贅沢に溺れた先進国の富裕層だと思いますね。

  2. 親元を離れて寮生活だった高校生の時に、バンド仲間の地元中学生の家に良く遊びに行きました。電気店のかたわら、弱電電気工事店でもあった彼の部屋で沢山のLP盤を聞いて楽しんだものです。そんな彼が或る日家の手伝いで古い民家の配線撤去工事を手伝って居た時の事、何かのはずみで瀬戸物で作られたガイシが割れて目に刺さり手当の甲斐もなく失明しました。片目が見えなくなった彼は義眼を入れましたが、仕方が無い話ですが、それ以来劣等感の塊になってしまいました。そんな彼が私を慕って社会人になっても私の下宿に居候したり、移住先の北海道にまで訪ねて来ましたが、何をしてあげる事も出来ず考えた挙句、この際彼を追い返す事にしました。いずれにしても他人にばかり救いを求めていても成長もできませんから、冷たいようですが彼の為に突き放しました。それ以来訪ねては来ませんが、成長したかどうかは定かではありません。

    • 心配ですね、その人のその後。私の知人でもおじいさんが猟銃を持っていて、その暴発で片眼を失い義眼を入れてた人がいます。ウルトラ読書家でした。写植やデザイン・制作の仕事をしていて、私にフランス文学のラブレー「パンタグリュエル」の全集を何かの祝いにもらいました。結婚して幸せに暮らしていると、紀伊国屋でばったり会ったとき言ってました。ハンディあったら誰かの補助はやはり必要だろうと思います。彼の場合、お兄さんが支えでした。将棋が好きで、営業マンが差しにきてましたね。趣味もハンディを克服させますね。

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