(商人が自分の商品に興味と熱を失う時代は・・)1932年 寺田寅彦
物理学者の寺田寅彦著『読書の今昔』というエセイで、本屋で書店員に探し求める本の有無を聞くと、ないと答えられたが見るとちゃんと目の前にある。寺田寅彦は淋しい思いをして書いたのが『商人が自分の商品に興味と熱を失う時代は、やがて官吏が職務を忘却し、学者が学問に倦怠し、職人が仕事を誤魔化す時代でありはしないかという気がすることもある。しかし、老巧忠実な店員に接し、掌(たなごころ)を指すように求める品物に関する光明を授けられると悲観が楽観に早変わりをする』
現代、企業の利益確保・株主へ最大の配当・いざという環境激変に備えて社内留保を貯めこむ経営戦略の犠牲に非正規雇用者が2000万人を超えた日本で、日々、商品が動き、サービス業務が果たされて、複雑なレジ仕事をするコンビニ店員と接触していて『何何カードをお使いですか?レジ袋は必要ですか?楽天カードやドコモカードお持ちではないですか』まで、以前からみたら何倍もお客に問いかける回数(仕事量)を増やしている現場仕事。時給が据え置かれるが覚えるサービスが増えて、やれポイントがどうしたのこうしたの、単純に客に売るというだけでなくて激しいレジさんである。市内のコンビニも中国人の観光客が減ったおけげで店内は落ち着いてきたこといい傾向だ。
ただ、寺田寅彦のエセイで問題は次の行『やがて官吏が職務を忘却し、学者が学問に倦怠し、職人が仕事を誤魔化す時代になりはしないか』という危惧である。1932年に書かれたので前年の9月18日に満州事変が起きて、1932年3月満州国建国宣言、5・15事件も起きて国内騒然とした中で、寺田寅彦は書いている。88年前に、自分の仕事へ熱意を失う人が増えることへの懸念を書いている。私の会社経験から言うと、実は逆で非正規雇用者の方が仕事に熱心でよく働き、正社員のほうが楽をしていい待遇を受けていたというのが真相かもしれない。なぜそうなるか、非正規は手を緩めると総務部が派遣会社へ電話して、簡単に雇用打ち止めにするからだ。こんなことを何年も続けていると心折れてうつ病でも発症する事態だ。『官吏が職務を忘却し』は誰を向いて誰のために仕事をしているのか忘れがち。すっかり国民や市民の姿が消えてる中で仕事をしている。『学者が学問に倦怠し』は、メディア露出でギャラ稼ぎに走る大学の先生たち。あっという間に生活が豊かになり、庶民からテイクオフしてしまう。ユーチューブで再生回数稼ぎもできて、本業の学問はおろそかになる。
新型コロナ全盛のころ、コロナ解説を某テレビ局と契約、日ごとに着るファッションが上品に鮮やかになっていった大学教授がいた。大学での給与よりよほど高い報酬を得ていることが被服を見てわかる。テレビは魔物だ。
全体に言えるのは、職業へのプロ意識が低くなってしまっている。物作りならそれが致命的な大事故を招きかねないということだ。