土壇場で内定-300x184

何年か前、岩波書店が新卒のコネ採用で世間をにぎわせたことがある。付き合いが作家や学者だから、出版社としては、作家の〇〇の甥だとか姪だとかでコネで入った学生の方が書き手との会話や営業がスムースになることは目に見えている。

私の在籍した4つの会社の人選を見ているとコネあり3つ、コネなし一つであった。狭い経験から言うと、コネありは退職まで「あいつはお父さんのコネ」とか「〇〇部長や取引先の〇〇印刷会社の課長の子息だ」と言われて、「入ればどんな手段を使ってもいいというものでもない」。余計な心労をする。やっかみの日本社会だ。退職まで言われ続けるのはしんどいことかもしれない。大手の広告会社も広告費を何百億円も使う企業なら、そこの部長クラス・役員クラスの子息を1000万円で雇っても超安い人質だ。コネの甲斐があるというものだ。スタートから格差だ。恵まれたスタートはしかし恵まれた結果には終わらないのも人生だ。

娘が大学3年の就職のとき(就職開始は4年の夏休みから始めないと勉強が身に着かないと思うが)、就職氷河期が続いていて、就職担当者は「コネでもなんでも使えるものは使え」と檄を飛ばしたと娘が言っていた。単なる大学の就職率アップ、有名企業への就職増狙い。「お父さん、どこかない?」と言われた。息子のときも妻から「あなた、営業でしょう!息子のためにどこか就職口探せないの?」叱られた。どちらも自分で働き口を見つけてくれたが、息子は大きな就職セミナーで、面接に来てくれた学生それぞれに、茶封筒で交通費を渡してくれた会社に就職できた。勤めて5年目に入る。

しかし、決まるまで筆者は息子の履歴書を3通持参して、仕事の合間に「ところで、私の息子、まだ求職中で、どうでしょうかね?」と証券会社へ打診。私に「証券会社だけはやめておきなさい。嘘は言いません」と役員から言われた。ノルマのきつさと嘘の横行、金持ちのえげつなさに辟易したのか、入るなら1億円以上のお金を投資信託でも預ければ内定をもらえるのか?我が家にそんなお金はない。

次は保険会社だ。ここも京都支店なら若者を育てるのが上手な人がいるから推薦できると言われたが、息子は「生保の営業は嫌」でペケ。ホテルの経営者にも履歴書を見せたが、「給与は仕事のハードさに比べて安いから、息子さんへは勧められない」と。身内の就職ほど難儀なことはない疲れた1年間であった。名古屋在住の兄へも頼んだが、真剣味薄く、自分の孫の話ばかりだ。もともと経理畑の兄には無理難題なお願いではあったが。

これは決まるかと、大学時代の同級生で東芝の子会社(大阪本社)の社長へも電話したが「関西はしんどいよ。関西の私立大学の工学部系しか採用しない。それも枠は一人だ」。「文化が違うから道産子が働く場所ではないよ」。どんな仕事が自分に合うのかわからない。ある仕事に自分を合わせることができるかどうかだ。そして仕事が面白くなってきたらしめたもの。

いまや大学や専門学校の授業料は、半端ではない。4年~6年いて、有償のお金を借りて、卒業時、借金数百万円からスタートする学生は可哀そうだ。結婚やプロポーズの障害になっている。アメリカ民主党大統領選挙でサンダース候補が大学時代の奨学金は返す必要ないと公約すると、若者の多数はサンダースへ傾いている。借りたお金の返済が苦しいのだ。黒人票とNYウォ-ル街が押すクリントンとの一騎打ちの様相だ。

それにしても、3年以内にせっかく見つけた会社を辞めて、次々と企業を渡り歩く人が多い。無事にランディングしたと思ったら、そこは倒産だったりして、人生が狂う。真実は人生、一寸先は闇。

  1. 僕も、勤続28年目にして、まさかの倒産の憂き目に遭い、3か月ほどの間、月額29万余の失業保険を貰っていたが、ハローワークでは高年齢で仕事は無いと言われていた。1年ほどは失業保険で食えたのだが、ぶらぶらしている間に自分を取り巻く環境変化とともに忘れられる存在になる事を恐れて、窓口で「独立」を宣言。退職金や生命保険解約金をあてに、中心部に事務所を立ち上げ一人で開業した。時間だけは十分すぎる程あったので登記も全て自力でやった。デスクトップのウインドウズを2台とスキャナーやMOドライブを購入。中古のMacを譲り受け改良。リース上がりのファックス兼大型プリンターも入手し準備万端、とは言え二年間はほとんど馴れないPCや周辺機器を毎日いじくって遊んでいたものだ。僕の事務所にはいろんな人が出入りしたが、前職で同じ倒産の憂き目に遭った東京の社員が立ち寄ったりしていた。そんな彼が再就職した会社の札幌営業所立ち上げの話を持ってきた。僕も自立3年目とは言え、大した仕事も無く、引き受ける事にした。就活をしたわけでもなく舞い込んだ話だった。仕事は好きな方で遊んでいるよりは遥かに精神的にもいい。しかし振り返れば、倒産直後の自分の進路などを自分で切り開く事はかなりの決断力が要る。家族からは金を捨てるような事業はするなと言われても、男として何かをやらなければ一家を養えないわけで、反対を押し切っても決断せざるを得ない状況下に立たされた。一つ間違えば一家離散となる訳だ。こんな時は、つい「男はつらいよ!」と心の中で言いたくなる。

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