『長いものには巻かれろ』とはサラリーマンを経験した人なら一度とは言わず、何度も口にしたことわざである。毎日ナビ2015年3月13日のサラリーマン調査で約8割が『長いものには巻かれろ』を肯定している。先日、ある知人(55歳)と久しぶりに会うと『長いものには自分から巻かれに行くのですよ』と言われてショックを味わった。そうなんだけどそうでもないよ。筆者は長い間、長いものとは蛇とか大蛇でそのとぐろの中に入ると安心みたいな感覚でこの言葉を使っていたが、図書館にある辞典類を探して『長』の漢字語源、類例や意味の確認作業をしてみた。

ものは漢字の『物』で『者』ではないと書いてあるネット記事もあるがそれは間違いで、類例を読むと『人である者』の意味のほうが強いと思った。意味はご存知のように『権力や勢力のあるものには反抗しないで、我慢して従っていたほうが得だ。目上の者や勢力の強い相手とは争わないで、それに従ったほうが得策だ』である。しかし、この類例が1773年、ある老人の雑話に『汝、家康へ礼に往きて間をよくすべし、長き物には巻れよと云事あり』、また浄瑠璃に(1770年)『鎌倉へ弓引かんとは浅はかな料簡、大な物には巻かれるという諺の通り』1786年にある諺『長(ナガ)ひ者(モノ)には巻かれ短ひ者には呑まれよ』夏目漱石の(我輩は猫である)にも『長いものには捲かれろ、強いものには折れろ、重いものには圧されろ』と。

しかし、類例はもう少し古い書物にあるかと思いきや意外に新しい諺ではないかと思った。諺は中国の様々な書物から引用され使用されてるものが多いが、どの国語辞典を中国の古典からの引用が出てこない。そこで『長い』の意味はなんだということで長いとは『ある点からある点までの空間的な隔たりが大きい。ある時点からある時点までの時間的な隔たりが大きい。精神的に持続力がある、のんびりしている』が『広辞苑』に書かれた『長い』の意味3種である。漢字のことなら甲骨文字研究の第一人者白川静さんの辞書で『長』の語源を調べると、もともと『長』は象形文字で、長髪の人の形である。氏族の長老を意味する。長髪は長老のみに許された(字通601p)。目上の者とは争わないで・・・の意味が、長幼の序でいけば実はこの長老を指している。話変わって、表題の『自分から巻かれに行く』は昨今流行語の『忖度』を易しい日本語にするとそうなるかもしれない。そういう意味では55歳の知人はまさに現代を生きているわけだなあと感心したものでもある。しかし、こういう生き方は何も日本だけではない。

You ca’nt fight cityhall(市庁舎と戦うな)

Dont kick against the pricks(尖ったものを蹴るべからず)

Kings have long arms and have eyes and ears(王様には長い腕と目と耳があります)

It is no meddling with our betters(目上の人々と争うな)私にはbettersがwafeたちに読めるがいかがだろうか。*meddling・・・じゃまをする。betters・・目上の人

 

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