兼好法師

1283年(?)~1352年(?) 兼好法師

小谷野敦著「友達がいないということ」(ちくまプリマー新書)を読んでいたら、昔、古典の授業で習った兼好法師「徒然草」のなかで、有名な友達にして悪い人はこういう人だと述べた件が引用されていて、高校生の頃、古典嫌いな私であったが、この部分は強く印象に残ったものである。こうである。

「友とするに悪(わろ)き者、七つ、有り。一つには、高く、やんごとなき人。二つには、若き人。三つには、病(やまい)無く、身強き人。四つには酒を好む人。五つには、猛く、勇める兵(つわもの)。六つには、空言(そらごと)する人。七つには欲深き人。良き友、三つ有り。一つには、物呉れる友。二つには、医師(くすし)。三つには、知恵ある友。」(第117段)。

偉くなって頂上を極めたような人は親身に相談にはなかなか乗ってくれないもの。若い人も経験不足で頼りない、病気をしたこともない心身屈強な人も、病人の気持ちを理解できず、意外に冷たい人間だ。酒飲みも避けた方がいい。猛々しく戦や戦いを好む人もだめ。嘘つきはもってのほか。欲望が底知れぬ人も避けなさい。

知人はたくさんいても、意外に「友達」は誰って聞かれると答えにくいもので、こちらは友人と思っていても相手は、そうでもなかったという経験は一度や二度ではない。男の場合、現役時代は、ライバル関係が抜けないので、同じ企業にいる人間より、外での知り合いの方が本音で付き合えるということが多い。一見、友達が多そうに見える人も、実は無理して付き合っていたりして、内実は早くひとりになりたいというのが本音だったりしてね。

50代半ばに大学の学生食堂でお昼ご飯を30年ぶりに食べに行ったとき、窓際の席が一列、外に向かっておひとり席になっているのにはびっくりした。ひとりで食べるにしても4人席の中で一人で食べるならわかるけど、最初から一人だ。せいぜい、横並びで二人か!?しかし、問題は、こういう物理的な空間の話ではなくて、友人の選択と排他性のことを小谷野敦は述べている。

特に三番目の、病の経験もなく健康な人々の人間観はどこか冷たいと。いまの医学では運動は必ずしも健康には良くない、ウォ-キングやストレッチもマラソンも避けた方がいいという医者もいて、運動=健康=善という図式は崩れてはいるがまだまだ根強い偏見が蔓延している。カラダが健康でも心は意地悪でイジメをやっている人間は小学生から社会人までごまんといる。

昨日から甲子園の高校野球が始まったが、クラブ内でイジメが横行していることは、一度でも体育会系の部に身を置いたものなら知ってることだ。そのまま、社会人野球やプロ野球へ行くにしろ、10代に身に付いた癖は死ぬまで取れないね・・と筆者なら思っている。スポーツ記事を書いている本人だって、その辺は熟知しているはずだが書かない。

大手の広告代理店やテレビ局になぜあんなに元体育会系が多いのか不思議に思っていたが、兼好法師に言わせれば、「三つには、病(やまい)無く、身強き人。五つには、猛(たけ)く、勇める兵(つわもの)。」は友に適さない人ということになる。さらに酒飲みも多いときている。友として悪(わろ)き人の典型になるのだが、果たして真実はいかに?私の経験から言ったら当たっている。六つめの「空言(そらごと)」も多い。

友達にして良い人は医師(くすし)以外にいまなら弁護士を入れてもいいかもしれない。ただ、物呉れる人は汚職にもつながるので仕事上では避けた方がいい。知恵ある友はなかなか見つけるのが困難、世紀の大事業かもしれない。意外や足元の妻だったりして。

  1. 友達と縁を切ったことがある。大阪から札幌に向かう時、行き先も告げず、僕は下宿を後にした。いつからか転がり込んで住み着いた図々しい後輩だった。居候のはずが、僕に甘えて我が物顔の振る舞いが気に入らなかった。しばらくはお互いに静かに音沙汰も無く過ごしたが、或る時、とうとう友人ルートから僕の所在が判ったらしく札幌の自宅まで押しかけて来た。その晩泊めて話を聞いたが暗い後ろ向きな話ばかり。彼は高校生の時に家業の電気工事を手伝っていてガイシが割れ、破片で片目を失って義眼だった。今回は失恋なのか、今も身体の障害のハンデからか北海道に死にに来たと言うニュアンスだった。翌日襟裳岬に行くと言い出した。僕は「行っておいで!」と言った。しかし翌日、案の状、予想通りにまた札幌に戻ってきた。最後に喫茶店でお茶をして「もう一度頑張れ!」と言って大阪に帰した。それ以来、彼からは音信は無い。男同士の音信不通は元気な証拠だと思うし、彼は、思いの外冷たく変わっていた先輩「僕」に「死んで来い!」とばかりに背中を押された事で目が覚めたらしい。そう言った僕も内心は「まさか死ぬはず無いよ?」と心配はしていたのだが、口には出さなかった。

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