いい文章に出会ったので紹介する。「黒いアテナ」(藤原書店)のすすめ(小田実)に彼が書いたものだ。

「黒いアテナ」は、もともとアテナはエジプトに植民地化されていて、エジプトとフェニキア(ユダヤ人多い)の影響をストレートに受けていた。北からの民族が南下してつくられたわけではなくて、古代ギリシャを自分たちのルーツであるとする神話をヨーロッパは1785年から1985年まで200年間にわたって捏造してきたとする論文が書かれた。書いたのはマーチン・バナールという言語学・考古学・歴史学者の本。この本をめぐって大論争が起きたことは言うまでもない。白いアテナにしようとしたら黒いアテナが自分たちのルーツであったのだから。しかもユダヤ人(フェニキア人の多数)も自分たちの文化の先祖であるのだから、当時からあったヨーロッパのユダヤ人差別思想が成り立たなくなる。

前置きが長くなったが、小田実の文章は、彼のギリシャ滞在で強い思いに変わった。

「私にはギリシャ人自身が、自分をヨーロッパ人、ヨーロッパ世界の一員として考えることに違和感をもっているように見えた。この違和感は、庶民-チマタのギリシャ人であればあるほど強くなる。・・・・」アテナのタクシー運転手が口にした次のような言葉「わたしたちのギリシャは民主主義という現代の政治原理のもとも、現代の科学技術のもとも、みんなつくった。しかし、そのつくった光り輝くもののもとをすべて【ヨーロッパ、西洋】に差し上げてしまって、自分たちは空っぽ、真っ暗、何んにもない、おくれた、貧しい国になった」

小田実が、タクシー運転手にそう言われたとギリシャ人の知人に言うと、それはギリシャ人が多かれ少なかれ心の奥底で思っていることだと感じた。(34p)

「ギリシャ人は古来、自由を何よりも重視して、絶対に人と同じことを言わない、同じことをしないで生きてきた。何ごともまとまって一つにならない、まとまらないことを自由な国ギリシャの国の誇りとする偉大な国民で、政治勢力も新聞も世論も千差万別、にぎやかにちがいを競い合う国だ」

何でも国旗と国歌でまとまろうとするアメリカ人に読ませたい一説である。

ソクラテス以前の自然学の祖ターレスも「彼はエジプト人たちから幾何学を学び・・・」(134p)とあって、(ソクラテス以前哲学者断想集 1巻目 岩波書店)「万物は水だ、火だ、種子だ」と還元する思考も、ひょっとしたらエジプトから借用したものかもしれないと思うわけだ。この本では22人の思想家の断片が書かれてある。22人目がパンタレイ「万物は流転する」のヘラクレイトスだ。果たしてエジプトとのつながり・影響はあるかどうか。ないはずはないと見当をつけてみる。

  1. 現代の考古学、歴史学から考えれば我々のルーツも進化した類人猿で発症の地は遠いアフリカやエジプトでしょうね。身近にいるペットの犬や猫でさえそうですから、いきなりギリシャから全ての文明が始まるなどあり得ないでしょうね。しかし人類も時を経て次第に器用になり、現代文明の証としての建造物や彫刻や文字や言語を作り出し今に残しています。それ自体は立派な事に違いありませんが、遠い祖先たちの基盤があればこそ成しえた訳で、あたかも自分たちだけがルーツだと思い込むには無理がありますね。確かに信仰を拡大布教させるためのツールとしての神話などを創作したり、芸術分野での草分けだったりした事は認めざるを得ません。ギリシャ人の頭脳明晰と偉大さは確かで、その自由奔放主義が産んだ人類史上の文化なのでしょうね。人間は都合よく解釈して優れた事や良い結果ばかりを残したがるものですが、我々の国のルーツさえハッキリ語れないのが現実ですからね。

    • 日本のルーツは3方向からです。1つは南から船に乗って、2つ目は朝鮮半島、3つ目はカラフトシベリアから南下。それが縄文人とミックスですか。元々大陸とつながっていた日本列島ですからね。縄文人は1万年以上前から住んでいたはずですDNAを調べると日本人のルーツはロシアバカル湖南側の村だと言う人もいます。「都合のいい話を盗む、都合の悪い話は隠す」で歴史は書かれ、記憶され、伝承されそして神話化されたのでしょう。一人の人間の生涯も都合の悪い話は消されています。本人には深く記憶はされてると思います。モーセがエジプト出た後も、アラビア半島を30年にわたって徘徊して、すでに住んでいた民族を虐殺し続けてきたわけです。旧約聖書にも略奪やレイプ奨励の文言が残っています。1神教はそういう考え方にすぐに移行しやすい宗教です。ギリシャはその点、多神教で緩やかな神話世界です。自由が保たれるバックボーンは、あれもいいね、それもいいね、これもいいね・・・という考え方が社会を覆っているときですね。

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