恵み野通信
近くの図書館勤務の男性司書とおしゃべり。最近、近隣の市が所蔵する図書が書棚に挟まれて置いてあるので困っている話だ。両市とも受付を通らない図書を持ち出せばブザーが鳴る設備を設けていないので簡単に持ち出されている。館長同士、電話でやりとりして返している。相手は「その本、紛失本でずっと探していた本です」。中には神奈川県の市立図書館の本もあり、たぶん転勤でこちらに来てこっそり地元の図書館に置いたのだろうと推理。神奈川の図書館へ連絡すると「長い期間、紛失していた図書です」と。図書館へ返せば、館同士のネットワークでもあって、元に戻ると思っているのかもしれないが、どこでもドアでもあるまいし、図書の送り賃はどうするか。人気の週刊誌「文春」「新潮」や月刊「文藝春秋」は、盗難の頻度が高くて、カウンターに置いて管理している。盗む人は成功すると繰り返すので、図書館側も犯人の検討はつけてはいるが、現行犯でないと突き出せない。ここの図書館運営は、ジュンク堂丸善の会社が運営している。その会社が無断持出本を防ぐ設備を設けないと、今度はここの図書が別な図書館の書棚に置かれる場合も出てくる。車で15分も走れば隣町の図書館だから。情けない事件だが、事件はいつも情けないことで始まる。
「悪は遠くから仕事をする」というフレーズを見つけて、何か書けそうで書けない日々が続いている。「希望の歴史」(ルドガー・ブレクマン)の一節だが続きはこうだ。「距離は人に、インターネット上の見知らぬ人への暴言を吐かせる。距離は兵士に、暴力に対する嫌悪感を回避させる。そして距離は、奴隷制からホロコーストまで、歴史上の最も恐ろしい犯罪を可能にしてきた」。(同著 下227p)著者はオランダの歴史家・ジャーナリスト。逆に目の前の相手には、近くの人へは善意で接する。「匿名」というのは「遠い距離から顔を隠して」と同意語なので、今の自分のフラストレーションを平気で吐いてしまう、弱い自分を他人にことかけて表現してしまう。毎秒毎分毎日、世界中で有意義な言葉に交じって罵詈雑言も飛び交う。手の平にスマホを抱えたハンターに現代人が見えるときがある。狩猟であり、人間狩りをしているのではないかと。実際、狩られて死の淵に逝く人もいる。高性能のカメラを抱えて、生活のために有名人の素行を追いかけて、1枚幾らで特ダネ写真を売るフリーの人もいる。「遠くからこっそりと」だ。最近、離婚相談でスマホ録音を持参して弁護士に証拠提出をする人も多いと聞く。動画さえ持ち込まれる。私の聞いたのは、妻から「ボケナス!」と言われたり、浮気が発覚して妻の前で土下座をする風景を妻が撮影している動画だ。「もう二度と浮気はしないと言っておいて、また浮気か!」。目の前の人には善意で接するという話を書いたが、こと夫婦の大喧嘩では全く通用しない。前言訂正だ。
