ソクラテス以前

原子論(アトミズム)でだれでも知っているデモクリトス(BC460年生まれ、同370年死去)が、アテネでソクラテスに会ったとき「哲学のオールラウンドプレイヤー」であることにソクラテスが驚嘆したと「ギリシャ哲学者列伝」の著者デイオゲネス・ラエルティオスが書いている。デモクリトスの著作は原子論の基本理論、宇宙論、天文学、地理学、生理学、医学、感覚論、知識論、数学、磁気学、植物学、音楽理論、言語学、倫理学、農業、絵画、年代測定学。プラトンは、これらの著書を集めて焚書にしようとしたが、すでに世間で読まれているからという友人のアドバイスで思いとどまったというが、プラトンの本は残り、デモクリトスの著作はすべて消失した(消失させられた?!)。プラトンの本には先行の哲学者の名前が次々出てくるのに、デモクリトスの名前は一度も引用されていない不思議な現象がある。デモクリトスは快活、明朗、笑いの多い人物だとも書かれてある。人間とは何であるかという問いに「人間とは我々の誰でも知っているところのものである」。ということは、皮膚をまとい、頭や手足を備えて、ある種の形を持ちその辺をうろついてるのが人間とも取れる。

断片で残されている言葉に「無は有(存在するもの)と同様に存在する」という言葉がある。有はもちろん原子であるが、原子は無数に複数に存在するとなると隙間や場がないと存在できない。「空虚」が必要だ。老子の「空っぽ」に似ていないか?無の存在がなければアトムは存在できないのである。また、アトム同士、運動をし、衝突を繰り返し結合もする。デモクリトスによれば、全宇宙、全自然の秩序がアトムのもつ秩序、運動や結合に支配されてる。人間も小さいけれど同じだ(ミクロコスモスという言葉を初めて人間に応用し使ったのはデモクリトスと言われる)。もし全著作が残っていたら、アリストテレス全集を超えてるかもしれない。「ギリシャ思想の華ともいうべき美しいものの一つが失われてしまった」(F・ニーチェ)

プラトンのデモクリトスへの嫉妬は、別に紀元前の話ではなくて、ただいまの世界にも多々あって、アカデミズムで特に激しい。具体的には書けないけれど。嫉妬は、他者との比較からくる感情なので、これに振り回されないためには、「人は人、私は私」「いずれ、そんなもの(肩書き・モノ・人)はすべて無くなる」「始まったものはすべて終わる」(大滝詠一)と明るく朗らかに青空を見上げてスキップしてニッコリしていると、デモクリトスの微笑に近づけるかもしれませんよ。最後に忘れていたが、「嫉妬の世界史」~男の嫉妬は国をも滅ぼす~(山内昌之)という本もありました。参考まで。

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