私が2回ほどブログでお世話になっている、ドキュメンタリー作家鈴木大介さん。「最貧困女子」(幻冬舎新書)は、言葉を失う本であった。7月10日の朝日新聞朝刊の新書を紹介するコーナーに彼の新著「脳が壊れた」(新潮新書821円)があった。説明に去年41歳で脳梗塞で発症し、脳の機能を損傷、今度は自らが障碍者となって、若者たちの生きづらさを、物書きの生命線パソコンを打つまでのリハビリの日々や心の変化が書かれてある・・と。取材対象者への肉薄度が凄い書き手で、取材中、何度も彼自身言葉を失い立ち尽くす場面もあったから、相当なストレス抱えての執筆だろうと思い、がんばれ鈴木大介さん!と応援ブログを載せた次第。昨年5月11日に掲載したブログです。

「地を這う祈り」と「最貧困女子」

 

2貧困

「見たくないものは、見えないことにする」という姿勢が、「えっ、いまの時代にそんなことってあるの?」と驚いて見せたりする。自分にとって不愉快なものは、目をつぶって(スルーして)生きていく。目をつぶってもそれはそこにあり、そこで生きている。

最新のテレビや流行やファッションやスイーツや車や観光地の話やエトセトラ。戦争という言葉も、それは具体的に死体の山であり、飛び散る肉片の残骸だったり、思い描きながら語っているのかどうか。描く想像力が欠如しているからペラペラ語れるのか、また自分は安全地帯にいて絶対死なない確信持ってお喋りに講じているのか、大いに疑問だ。

それに似たことが「貧困」や「ストリート・チュルドレン」の実際にも言える。「地を這う祈り」は、目次を出すだけで内容を想像して欲しい。●スラム●少女売春婦の死(路上の性愛)●台車の老婆(食生活)●病気のドラッグ売り(薬物依存)●ゴミの中の胎児(廃品回収)●路上の恋文屋(大道商人)●テロリストの墓(紛争地)●檻の中の子供たち(障害者施設)●路上の神様(祈り)。石井光太さんが写したカラー写真と文章が約200ページにわたってついている。

世界最貧国の都市の表通りと裏通りを描いている。彼自身も身の危険を感じながら取材している。国というから、彼らに何かを差し伸べる、福祉を提供して生きるのを助けるという機能が全く働いていないことに、憤りを覚えながら、最貧国であるがゆえにとてもお金がそこまで回らない。日本の特派員も簡単に行ける場所なので、彼らもたぶん著者の石井さんが目撃した悲惨な風景を飽きるほど目にしているはず。しかし、それを、本社に送っても写真の掲載は不可になりそうなものばかりだ。そして、もう1冊「最貧困女子」(鈴木大介・幻冬舎新書)。

「家庭の縁」「地域の縁」「制度の縁」の三つの縁が切れて、生きるためにセックスワーカーへ吸収されていく小女(女性)たちを20余人ルポして歩く。家庭の中での虐待から家出、相談する友人もなく、路上へ。そこに手を差し伸べる同じ境遇の女性や性ビジネスの男たち。社会福祉の詳しい制度も知らない。取材経費を使うので、風俗を経営する男たちにも取材ができている。余りの救いのなさにライターも精神的な限界を感じながら、悪戦苦闘する。

「助けてください!」と言える人と言えない人、同じ痛みでも、言えなくて放置されている人を見なくてはいけないと著者は言う。「ここで、懺悔するならば、僕は逃げたのだ。彼女らを取り巻く、圧倒的な不自由と、悲惨と壮絶から、僕は尻尾を巻いて逃げだした。そこにあったのは、考えても考えても救いの光がどこにあるのか分らない、どう解決すればいいのか糸口も見えない、そんなどん底の貧困だった」(56p)。

取材途中、幼子を残して自死したシングルマザーもいた。この本は、「精神障害・発達障害・知的障害」にも目くばせする。そうすることで「貧乏でも頑張ってる人がいるとか、貧困も自己責任だ」という無理解な人の考え方を払拭できると考えたのだ。

  1. 「貧困の地球現実ツアー」の企画を立てる旅行会社は現れない。企画する側はその現実を知っているのだろうが、ビジネスにならないからだ。つまり富裕層を相手に旅行ビジネスは成り立っているとも言える。友人の葬儀で見せられた在りし日の写真にもモンサンミッシェルやパリの街角などで撮られた写真とかイタリアのレストランなど、他の旅行好きの友人たちの写真にも似ていたりした。しかし美しいあこがれのヨーロッパも今やテロの恐怖に慄いている。となれば旅行会社も矛先を変えてくる。今や北海道は風光明美だと外国人に人気だ。これも旅行ビジネスなのだろうが、社会の裏までは見せないようにしているから、見かける旅行者たちは皆んな幸せそうだ。戦場のカメラマンが痛々しい子供の写真を撮り著名な賞を貰う。生死を分ける危険な場面を撮影したキャメラマンも居る。これもレンズと言う透明な壁の向こうから見ているだけだと思う。貧困や紛争地帯の残酷な場面を伝える事は出来ても、それすら見たくない人たちには、救うためへのメッセージにはならないだろう。伝える事も大切だが、救う事の方が先決な訳で、国が悪い、政治が悪いと、対岸で批評する私たちに、どう行動すればいいのかを教えて欲しい。

  2. 他人がやらない、やりたがらない分野で活躍されている方々は、現地や現実を直に見て、聞いて、ペン(PC)や映像の力で訴え続けていらっしゃる事に頭が下がる。報道などもそうだが、現場は生々しい筈も、いつしか、どこかで見せない力は働いてしまう。酷いものは見ない方がいいと。これも組織の方針がそう働かせるのだろう。汚いものは掲載しない、美しいものは露出する。そうやって潔癖症だらけの現代人は甘やかされて来ている。「キモ~イ」とか「クサ~イ」とか「グロ~イ」とか言っている場合ではない。

  3. 今の日本人が戦争などしたらきっと、負けるでしょう。そんな現実から遠のいているから、右往左往するだけで逃げる術しか持っていないのではないかと思う。戦争は良くないが、世界では今もあちこちで紛争が勃発している。虫も殺せぬ私たちは、災害の悲惨さは知っていても、そんな現地を見た事もないし、また見たくないとも思う。また貧困も一度や二度味わっていても、這い上がれない状況下にいる人達のことまでは知ろうとしていない。株価がどうの、経済がどうのと毎日騒がしいが、そんな事にはまったく無縁の世界の、今日を生きられるかどうかの瀬戸際の人々も、足元に現実にいる事も、もっと知らなければならないでしょう。

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