満州建国大学という存在(7月23日掲載)
11月25日、26日とシベリア鉄道の話を書いたので、満州にあった「自由大学」のエピソードを再録します。地図では現在、シベリア鉄道になってます。
満州建国大学という存在。
読書家の友人から先日メールで「五色の虹」~満州建国大学卒業生たちの戦後~(三浦英之著 集英社)を読んだと知らされて、えっそんな大学名をはじめて聞いたと思い、さっそく図書館から借りてきて読んでみた。1938年5月開学、9期生まで1400人在籍。
日中戦争当時、満州に設立したエリート大学で定員150名で応募は2万人を超え、日本人、中国人、朝鮮人、ロシア人、モンゴル人の各民族から優れたエリートたちを選抜して、卒業まで学内では試験を行わず、給与も支給され、「言論の自由」という特権も与えられ、毎日世界情勢について喧々諤々を自由に交わしていた日本がはじめて作った世界大学である。もちろん日本の外交施策批判もOKである。
場所は満州帝国の首都、新京(長春)で南満州鉄道沿い。当時、五族協和という理念が日蓮宗徒・石原莞爾(関東軍作戦参謀)らによって提唱され、満州国を作り、満州国皇帝に清朝最後の皇帝溥儀を君臨させた。たった6年間の大学ではあったが、敗戦と当時にバラバラになった卒業生たちの行方を丹念に追った本だ。敗戦で大学を閉めるときに、すべての資料を残さないよう焼却させた。大学にはマルクスレーニン主義を学ぶための全集もあり、自由にそれを読んでいたし、眠るときは、同じ民族同士が並ばないよう配慮され、違う民族同士が相互理解を深め、それが未来にそれぞれの民族の指導者になったときに活かされるはずという理念でもあった。
語学も他民族の言語をお互い学び合う理想的な学び舎ではあったが、いかんせん、大学の外は戦争状態で、中国は国民党と共産党の内戦、日本は抗日運動にやられ、北からはロシア軍が迫り、朝鮮でも反日運動の生死を賭けてる時代に、「言論の自由」「若さと高邁な民族協和の理想」に目覚めた学生たち。ある者はシベリアに送られ強制収容所、そして帰還と現地での死。中国国民党に入り、後に共産党政権から「売国奴」とののしられる卒業生、帰国して新聞社に入り仕事をする人もいる。
取材当時ですでに80歳を超える人たちは、しかし、同窓会名簿はしっかり作成して生きてる大学同窓会名簿。そこの連絡先を頼りに、連絡して「当時の生活」「なぜ満州大学を受けようと思ったか」そして、一番は1945年8月15日から今まで、どういう暮らしや苦労をしてきたか聞き取りをしていく。これ以上、この取材を伸ばせば満州大学の卒業生が世の中にいなくなる。記録されないことは記憶に残らない。
この本を読んで、つくづく国家ってなんだろう?民族って何だろうと思う。この満州建国大学構内は平和であっても外は殺戮の嵐。はじめ5色という言葉は、五族協和という五から取られたと思ったが、あとがきで著者が南アフリカのネルソン・マンデラ元大統領が人種や民族の違いを超えた多民族国家を目指そうと、自国を複数の色が合わさる「レインボー・ネーション」(虹の国)にたとえた歴史的な演説から理想を語った、すなわち満州建国大学の理念も同じであったということで使われている。
しかし、現実は、当時も今も、民族や人種に加えて宗教も混合して、下手したら、当時よりたちの悪い世界に入ってるかもしれない。自宅前を昼ごろ、近所の専門学校生が歩きスマホで「ポケモンゴー」をしながら歩いて行った。私もi-padでダウンロードしたら自宅に1個キャラクターがいたことを彼らに告げると「こういうゲームができる平和がいいですね」とかえってきた。世界中の民族や宗教を超えて「ポケモンゴー」に夢中になって、殺戮を忘れることの思考の癖が蔓延しますように。(注 ポケモンゴー配信日7月22日でした)
理想と現実。
戦々恐々、軍国の時代に平和な大学が、それも理想的な環境があったなんて。現代では可能なようで難しいかもしれませんね。トランプ氏ではないですが移民を排除する発言や、我が国では憲法改正案や、自衛隊派遣法など時代は逆戻りしているように思います。まだ不透明ですが、この先最悪のシナリオの序章にでもならなければいいのですが。身近なところでは、つい最近の小学校参観日で担任教師が児童たちに「将来は何になりたいですか?」の質問に、我が家の当時小2の男児(孫)が、一番先に勢い良く手を挙げ「ハイッ!自衛隊になりたいです!」。参観に来ていた父兄の間で失笑が起こったそうだ。父兄たちにジロジロ見られて父親は赤面してしまったようだが、続いて他の数人の男児も彼に続いて「ハイッ!ハイッ!僕も自衛隊になりたいです!」と。特別な日の想定外の答えに、教室内は父兄たちのざわめきと、たじろいだ担任教師の様子に教室内の空気が一変したようだ。子供は無邪気で、ゲーム感覚で自衛隊を捉えているようだが、大人達は自衛隊=戦争=殺戮をイメージするのだろう。隣近所にも、知人にも元自衛隊の者もいるから、父兄の中には、この数人の男児たちを「頼もしい」と思う者も居たかもしれないし、まさか、この子たちが将来自衛隊に全員入隊するかはわかりませんが、IS志願の学生たちでさえもゲーム感覚かも知れません。情報過多の時代の子供たちの教育って難しいですね。現実は、父兄や教師の知らないところで洗脳される事もありますから。