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現代では、ペストの原因は齧歯(げっし)類のネズミやリスの血の中にあるペスト菌がノミを媒介にして人間に咬みついてペスト菌を感染させ、それが飛沫感染をして患者を爆発的に増やすという医学的なことはわかっているが、当時は様々な原因説が出た。


中世は、その原因を生体の機能上の障害というより、人間のモラルであったり、森羅万象であったりした。信仰が篤ければよけいに、その原因をある前兆に求める人も多い。暴風雨、火柱、彗星の出現などである。黒死病の前には前兆として大地震が起きるという説も流れた。

神罰説、占星術的原因、大気腐敗説、異常気象説、大異変説、毒物投入説、そして微生物説もあるにはあった。


中でも、3回目に書いた鞭打ち行団は「神罰説」。「種々の邪悪な泥沼にまみれて、無数の悪徳を追い求めている罪深い人間に対して、今や神の罰が下された。疫病は人類を容赦なく傷つけ、急死の矢で滅ぼす。人間よ、嘆き悲しめ。そして神の慈悲を乞い求めよ」(1350年、ムッシス 疫病の歴史)いまでもアメリカの新興宗教の布教の一説に使えそうな一文だ。

当時、インテリであったペトラルカでさえ大司教宛ての書簡で「これは(黒死病)、私の間違いでなければ、罪を繰り返す人間に対する神の怒りのしるしなのである。もし人間が罪を犯すことをやめるならば、神の処罰は少なくなるか、もっと穏やかなものになっていくだろう」(1367年)この説はヨーロッパ近世まで続く。現代でも使えそうな説でもある。

 

毒物投入説はすでにユダヤ人が共同井戸や水源地に毒を入れたデマから虐殺をした事件を述べた。関東大震災でも朝鮮人が井戸に毒を入れたとデマを流して多数の朝鮮人が日本人に虐殺された事件も起きている。ネット社会はデマの広がる範囲の大きさや外への影響を考えると、中世以上に危険なメディア、使い方によっては大きな武器を各個人が持ってしまったともいえる。


16世紀になって、微小な生物がペストの原因であるという考え方が、イタリヤ人の医師ジローラモ・フラカストーロが1546年「伝染及び伝染病と治療にについて」の中で「流行病はわれわれが知覚不能な微粒子によってはやる」と記した。さらにイエズス会士やオランダ人も伝染性生物の存在を指摘していったのである。しかし、それでも当時の医師は古い考え方(モラルや天変地異説)を譲らず、18世紀をまたないと全医師の共通理解とはならなかった。


スウエーデンのリンネ(医師&植物学者&遺伝学者)も伝染性生物を支持した。あとはペスト菌の発見を待つだけとなった。ごぞんじ北里柴三郎であり、フランスのイェルサン。1894年のことだった。

  1. 窮鼠猫を噛み、狂猫犬を噛む。

    菌の発見までに随分の年月と犠牲が払われたのですね。細菌の研究が進んでいる最近では神羅万象など唱える者は、不幸を餌に怪しい布教をする新興宗教ぐらいでしょうね。それにしても、窮鼠猫を噛むと言いますが、ネズミを食べていた猫やネズミに抵抗されて噛まれた猫たちは大丈夫だったのでしょうか?人間に比べて、問題視されなかっただけなのか?それともネズミから感染した猫も媒介の手助けをしていたのか?。もし感染した猫が、不仲の犬に噛みつけば、犬も媒介して、飼い主が感染すると思いますが、その辺の話は一切出て来ない理由は、当時、犬猫は少なかったのでしょうか。それとも感染していち早く死滅してしまったのでしょうか?歴史の中で動物たちの話が無いのが不思議です。

    • ネズミ以外の動物といえば当時は猫・馬・牛・羊、そして犬と人間です、豚もいたでしょう。調べてみますが
      ペスト患者からの伝染猛威が凄すぎて、この本には記述はありません。デフォという作家に『ペスト』につい
      ての記述があり、ブログで途中まで紹介したのですが、長すぎて断念しました。馬車に遺体を乗せて、郊外の
      墓地に埋めに行くシーンがありました。機会をみてデフォの見た(生々しい)ペストについて観察(ロンドン
      から)を数編紹介しますね。リアルタイムのペストで、ど迫力あります。固有名詞を失ったペストで犠牲になった
      遺体の群れ。現代文明は、超多くの犠牲者の上にある。そしていまも犠牲者を生み続けています。

  2. 多くの犠牲の上に生きている。

    衛生面の環境整備の遅れと、細菌研究にたどり着くまでの長い年月、殺菌能力の強い薬品などの開発遅れと、すべてが後手に回った結果、世界中に蔓延したようですね。僕は幼少期に大震災を経験しましたが、あの悲惨な災害の後に上下水道網が整備され、復興当時は全国一上下水道が整備された清潔な街となりました。暮らし続けている歴史ある古い町並みの整備は困難ですが、多くの犠牲を払った災害にも、今になれば感謝の念を抱く事もありますね。多くの犠牲があってこそ、現代がある事を忘れてはいけませんね。

    • ペスト菌の発見と塩素の上水道への混入が効を奏した。チフスなど胃腸の病気で日本でもたくさんの子どもたちが
      なくなりました。いまの医学なら簡単に治せる病気も当時はハードルが高かったですね。

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