テルマエ・ロマエの作者・ヤマザキ マリ。
映画『テルマエ・ロマエ』を封切で見に行ったときに、30分見て筆者は映画館を出た。ギボン『ローマ帝国衰亡史』を読み始めていたのでなんともふざけた内容で退席したのである。妻や娘から大ブーイングであった。ヒットマンガの映画化で阿部寛主演の映画に失礼だと。映画はその年、数々の映画賞を受賞した。われながら、時代の動きや流行から相当ずれている自分を感じた。
昨日、図書館の司書(彼女も山下達郎ファン)から『瀬戸さん、ヤマザキ マリさんのマスラオ礼賛を詠みましたか?山下達郎さんについても書いていますよ』というから読んでみたら、なんと『テルマエ・ロマエ』の原作者であった。『マスラオ礼賛』というからマッチョ的な男・男の中の男を紹介しているのかと思いきや、自分の好奇心に正直に、生物としての生き物として、国境を越えて、郷に入ったら郷に従い、人間のジャングル内(世間)で一人でも生きていける、生物として〈動物として)の人間の回復を願う本であった。
14歳でイタリアに絵の修行で渡り、またそれを許したお母さんや祖父への感謝、雄と雌の差異にこだわり続ける生物としての人間に無縁のように少年たちと虫取りや小動物と遊んでいた少女時代を送ったヤマザキマリさん。生まれた男の子に〈デルス)と命名する。映画の制作費費が集まらず、自殺未遂を起こした黒澤明へ当時のソビエト政府が資金を出して完成した『デルス・ウザーラ』。東シベリア北方少数民族ゴリド族の(デルス)を案内人として、シベリアの地図を作ろうとした探険家たちが、いつしか家族も失い、一人きりで暮らす60代後半のデルスの生き方・ひとり暮らしの孤独感に惑わされない生き方に感動・共感する映画らしい(筆者未見)。(132pから)
自然を征服するのではなくて、それに合わせる。文明に身を委ねすぎた人間社会が忘れた自然への愛や敬愛。それ以外に、空海や安部公房、山下達郎、18代目中村勘三郎、スティーブジョブス、チェゲバラ、教育テレビに出ていたノッポさん、水木しげる、ローマのハドリアヌス帝と時空を越えて走り回るエセイである。
全員に共通は、周りからの評価基準に振りまわされずに、顕示欲やプライドに惑われされずに、雄としての想像力を縦横無尽に発揮して生きて欲しいという応援歌の本であった。社会や世間という帰属の概念に囚われずにね。ヤマザキ マリさんの住むイタリアからのメッセージでもあります。自省を込めて。雄の想像力なくして文明は生まれていないと、ヤマザキさんは語る。
そうそう、肝心の山下達郎さんについては、『空まで抜ける声を持った職人』というタイトルで、彼女が17歳で成田からローマへ一人旅するときに、ウォークマンに(The Theme From Big Wave)のカセットを目的地まで擦り切れるくらい聞き続けたと書いている。『新たな自分の人生の開拓に踏み込んだ私の細胞は、終始山下達郎さんの音楽で栄養補給をし続けていたのである。』(同書118)。1967年生まれで達郎ファン、そういえば去年のコンサート会場で筆者は最高齢に属するような気がした。来年はコンサートすると宣言しているから楽しみだ。蛇足ながら達郎バンドは名ドラマー故青山純の後を受けたドラムは小笠原拓海さんで札幌北区出身。
99%の努力の方法。
ヤマザキ マリ さんは幼少時から千歳で育って女手ひとつで育ててくれた母親も千歳に住んでいるようですね。海外単身渡航で破天荒な人生のようですが、要所要所で巡り合った人たちの影響で、いろいろな体験が作品に反映されているようです。もともと食べるための漫画家志望とは言え、STVでパーソナリティを務めてみたり多彩な方です。漫画家だけあって、北海道で育ったこともあってスキーもできるための冬道で母親のクルマを大破させる大事故に遭っても意識の中でギャグを言い続けていたとかのエピソードもありますね。イタリア人との出会いがテルマエ・ロマエなどの作品の創作ソースになっているようです。しかしあくまで漫画家の視点の作品ですから史実に基づいてはいてもギャグ作品ですから、そんなに目くじらを立てなくてもいいと思いますよ。お勉強ばかりしてエリートになる人もいれば、冒険をして人間形成をする人、どちらも天才ですが、また、どちらも見えないところで努力をしているのでしょう。
井の中の蛙。
図書館にも彼女が居たんですか?いろいろな情報を教えてくれるなんて、ずいぶん親切な人ですね。羨ましいです。これも大好きな山下達郎さんつながりですね。しかし、ヤマザキさん達のように、大成する人は、大抵、若いときに一人旅で外国に行っていますね。小澤征爾さんも、お金がない若いころに、ベスパのスクーター一つを持って、芸術の国イタリア目指した時に乗せた貨物船の船員(九州出身で札幌在住)の人に聞いた話にもダブってきました。お金にも困っているときに冒険することこそ無謀に思えますが、プラスかマイナスか、人生どうなるかわからないから、冒険したほうが自分に対して納得できるのでしょうね。創作活動など芸術を志す人達でも、冒険も何もしないで、普通に安泰に暮らす道もあったのでしょうが。難しい方の道を選んだ人の中の一握りの人が、プロセスは困難でも、最終的に成功を収めることになるのでしょうね。経験は多いほど、創作活動のための引き出しをたくさん作ってくれますからね。