田宮二郎の財前五郎役

山崎豊子原作「白い巨塔」の第三部は、財前五郎教授が執刀した患者の噴門ガン手術は成功したが、転移していた肺がんを見つけられず、さらに不誠実な診療対応に遺族が財前に対して誤診裁判を起こす。財前を教授にするべく運動した鵜飼医学部長は、裁判で負けた場合、学長を目指していた自分であったから「私の立場はいったいどうなるのだ」と叫ぶ場面だ。


長いサラリーマン人生を送っているとこれに似たケースは多々あって、親会社から天下ってきた社長が数年して、会社内の金の不祥事が発生すぐにした。本社へ報告せず、内々で処理しようとするが、彼の政敵がこっそり不祥事を本社へ密告。本社から「即刻、上京して説明せよ」。社長が犯人探しを始めたことは言うまでもない。「これでは私の立場がない。どうしてくれる」と密告した人間に激怒、彼を降格処分。本人も社長の座を降りて、しばらくして病死。密告した人間も73歳で死去。


どちらも亡くなったから書ける話ではあるが、権力トップを狙う人間にとってスキャンダルは命取りになるらしい。さらに貶めるためにスキャンダルを意図的に流す(リーク手法)ことをする。相手を利用し利用されて時は流れていく。バーで働く財前の愛人ケイ子が、浪速大学の学長選挙で当選を狙う鵜飼医学部長について「鵜飼さんは、自分のためにあんたをかばっているだけのことやわ」と一番冷静である。国立大学医学部という恵まれた境遇にありながら、「白い巨塔」の縦関係の分析とリアリティーは読むたびに引き込まれる。


先だってあった、慶応大学の塾長選挙で得票数で2位の長谷山彰氏が新塾長に就任した。清家元塾長に批判票が多過ぎたのである。しかし、慶応OBや財界・各部長で構成される銓衡委員会(どうして選考という漢字を使わないか)で文科省からの補助金交付もあり、財界の意向や清家元塾長の財界との太いパイプもあって、逆転させたのである。これまでの選挙では1位が必ず塾長になった。しかし、塾長は100%選挙で選ぶとは書いていないから、選挙は参考にするという建前だから、2位を1位にしても構わないという理屈だ。清家元塾長がまだ院政を引きたいのであろうが、権力と言うものは魔物中の魔物で、実際、この怪物に飲み込まれてみないと、その快感・金・名誉の味を知ると止められない、止まらないらしい。たくさんの職員が投票行為をしても反映されない。1票の重みさえない、「白い巨塔」以前の話に慶応はなってしまった。


「人事権」が役所やサラリーマン世界では、振り回す側は蜜の味で、「白い巨塔」でも気の弱い医師たちが、出世のニンジンぶら下げられて、右往左往する姿を山崎豊子は描いている。人事権を持った人間に逆らえない、実際、逆らった人間を更迭する安部やトランプやプーチン、更迭を超えて虐殺する北朝鮮。


しかし、「人事権」を持った人間もいずれ終わる、健康や寿命や選挙で100%終わる。これに例外はない。小さな話であるが、近所に社会保険庁の元役人がいて、バラを120本植えて庭を開放。見学者のために自宅の庭のバラノートをつけているが、ある日筆者に「このバラは新入りの癖に伸びすぎて先輩のバラの日射を妨げるから、別の場所に移す予定だ。」70歳を超えても「庭に人事権発動癖」。半分冗談、半分本気。この病気は治らない。「白い巨塔」が読み続けられるわけである。

  1. 巨塔ではなくても,会社組織の中でも、いろいろ見えますね。トップが変わった途端に見事にゴマすりしてべたべたくっついていってカバン持ちまでして,利用価値がないと判断されれば、たちまち見捨てられる人たちが。人間の性格など一年間観察でもしない限りわかりませんが,生きる目的を何に定めるかによって自ずと性格も変わっていくでしょうね。結婚すると兄弟姉妹仲が悪くなるのも,相手に気遣って自分を殺してしまうからですね。いずれにしても他人同士はどこまで行っても他人ですね。組織には派閥もつきものですよね。私の経験では,30名ばかりの規模の会社でさえ,5つの派閥がありましたから。どれにも所属せずに辞めましたが。

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