2009年に起きた鳥取の事件(連続不審死事件)で強盗殺人罪で起訴され、死刑判決を受けて即日控訴した上田美由紀に鳥取まで会いに行き、面会もした臨床心理士の信田さんが鼎談で漏らした言葉。同じ年に北海道別海町出身の木嶋佳苗の事件がメディアで大きく取り上げられて隅のほうのニュースになったが、『毒婦たち』(東電OLと木嶋佳苗のあいだ)河出書房(上野千鶴子+信田さよ子+北原みのり)で信田さんの言葉が重い。

『貧困には言葉がないんですよね。金と食べ物さえあればいいという、言葉のない生活が貧困なんじゃないかと思う。上田美由紀は中卒で、19歳で結婚して、それから5人の子供を産み続けているわけですよ。母親の証言では最後の二人の父親は誰だかわからないと。美由紀の父親も早い時期に亡くなっている。友達によると、実家の中はがらんとしていて何もなかった。普通はテレビがあるだろう場所にテレビがなかった。テーブルがあるべき場所にテーブルがなかった。がらんとした家の中に上田美由紀がいた』と。私のブログは言葉と権力については何度も書いたが、言葉と貧困についての視点が欠けていた。言葉は書物から以上に友達や親との会話やおしゃべりで知らずに学んでいく。そこのところが私自身に欠けていたから『貧困には言葉がなんですよ』という発言にどきっとしてしまったのである。

明るいテレビに出れるような貧困ではなくて、絶対的といっていい貧困。母子家庭手当の申請もせず、生活保護申請もせず(そもそも法律について知らないし、周囲でアドバイスする人もいない状況か)、貧困に沈んでいく。この本の中で木嶋佳苗の男殺しについても触れていたが、言い寄る男たち(幸い、生き延びた男も含めて)の共通性は年齢に関係なくケアを木嶋に求めている男たちで、顔だちの美醜ではない。ケアした代償としてお金をいただくという構造で、体格は小柄な男。過保護な母親に育てられた男たちである。なんだかどこの都会や田舎にでもいそうな男たちで、私は100%、そういう罠には嵌められないよと断定できる男はいないような気もするのだ。

それにしても女性3人のトークは、女性の犯罪と東電OL殺人を扱っているが、本当のテーマは『男たち』について語っていることで、ポジネガの関係で男があぶられてくるから不思議だ。父親や会社の上司や裁判官や金を持った老人や男たちの現実の姿を露わにしてくれる。『見たくないものは見えないこととする』点において男は共通な感覚を持っているみたいだ。

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