2哲学者の死 哲学者の死

面白い題名の本があったので借りてきて読んでいる。ソクラテス以前のターレスなどイオニアの自然哲学者から始まり、最後はフランスの構造主義者まで190人に及ぶいわゆる神学も含めて哲学者の死に際の話が書かれている。実際はまだまだ無名な凄い人が、どの世界でもたくさんいるはず。

190人の哲学者が一堂に会して350ページにわたって彼らの最後が書かれてある。原題は「The Book Of Dead Philosophers」(河出書房 2009年8月初版)。中国から孔子・老子・墨子・孟子・荘子・韓非子、日本から禅と死の技芸(禅宗の栄西)が選ばれていた。

「哲学って何?」と聞かれたら、「死への練習」とか「死への向き方」とか必ず「死」が伴う、すなわち、それは「どうやって生きるのか」と同じことなので、コインの裏表。人間「どこから来て、どこへ行くのか」わからない。プロセスしか生きられない。エジプト人の習慣でも、死んだ人間の骸骨を前にして、宴会の席で「飲んで楽しめ、死ねばお前たちもこのようになる」と。別に西洋に限ったことではないのである。何度も何度も襲ったペスト(黒死病)で死は目の前の現象であったし、日本でも天変地異や疫病の流行、飢饉での餓死も多くて疫病を遠ざけるために祭りが行われていた。

このブログで紹介したかったのはイスラム教徒の現在のトルキスタン生まれのアル・ファラビー(870年~950年)と現在のウズベキスタン生まれのイブン・シーナ(980年~1037年)だ。私もはじめて聞く名前で、彼らがいなければ「中世の偉大なるイスラム哲学者たちの記念碑的な業績なくして、ギリシャ哲学、特にアリストテレスに関する知識は、西洋キリスト教世界に伝えられることはなかった。」(同書139p)アルファラビーの著作は900冊あって、多くはラテン語に翻訳された。イブンシーナも450冊の本を書いて、形而上学からい医学書まで多岐にわたる。

イスラム教徒は自身の先祖たちが、近代のヨーロッパを用意したことに誇りを持ち、ヨーロッパーはイスラム教徒のおかげで、自分たちの文化・文明が築かれたことに謙虚に感謝する・・・そういうしつけを小さなころから双方で教え合う習慣が絶対的に必要な時期に来ていると思う。

ギリシャ語→アラビア語→ラテン語→西洋国民言語でヨーロッパの近代は準備されたわけで、ここでアラビア語での翻訳が無ければ、どういった世界になっていたのか皆目見当がつかない、それほどイスラム教徒の役割は凄い。彼らの弟子たちも膨大な数がいたことが予想され、ヨーロッパの近代を準備している。それをまたラテン語に翻訳していた修道会の連中や学問フェチたちがいた。そういう活動を経済的に支援する領主もいた。こういう目立たない仕事に生涯を捧げる人たちが、実は人類の歴史を作っているかも知れなくてね。明治時代、渋沢栄一はじめ学問のパトロン的な人が多く経済界にもいた。(今は自社企業の宣伝で費用対効果測定しながらのスポーツのパトロンばかり)宮本常一さんも日本中を歩いて、地域地域の文化を記して残す仕事をして「常民」という言葉で庶民を表現した。

明治時代に西洋の言語を横から楯に文字を並べて、辞書もない中オランダ語から訳された「解体新書」から始まり、日本語への翻訳も開始した。私の書いているブログ内の漢字の中にも明治時代につくられた翻訳日本語がたくさんあるだろう。彼らの恩恵を受けている。190人の哲学者がNY国連会議場で、公開討論でもされたら、さぞ壮観な風景だろうなと思う。今の時代について、人類の未来について、科学技術はこれでいいのか、宗教は愛より憎しみを増幅させるのかなどについて話し合われたらいい。それを世界中継でもして、一日、生産を休めて、移動を止めて、じっくり耳を傾ける時間にすれば少しは人類の延命に寄与するかもしれない。

「哲学者の死に方」という本ではあるが、別に普通の人と死について変わった死に方をしているわけではないので、具体例は省いた。生き方は多様だけど、死は似たりよったり。しかし、「死を学んだ者は奴隷であることを捨て去った者である」(モンテーニュ)。なんとなくわかる気がする。それが厳しい自由思考への道へ通じるのだろうと思う。

  1. 世に名を馳せればメディアや派手なスポーツチームなどを持ちたがるのは、一生の中で一刻も早いうちに存在を広く知らしめ、後世にも名を残したいと言う願望によるものだろう。一方、無欲ながらも結果的に後世に名を残す人たちは、たいてい没後に世に認められるものだ。それほどに地道な努力を一生続けているのだろう。没後では自分のためには何のご褒美にもならないが、後世の人たちが潤い結果的に歴史に刻まれることになるのだろう。歴史の各ページの余白には語られない偉大な人も大勢いるに違いない。意外に身近な人も含めて。

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