車

新鮮なメールがきました。まだ、パソコンが導入される前にもやはり広告活動が盛んで、デザイナーや制作は手書きで書いていました。それはデザインに限らず、今日、企画書と言われるものもワープロが普及する前は、綺麗な文字が書ける女子社員の仕事でした。ワープロが導入されても、すぐに飛びつく人、全然関心を寄せない人様々。メールの送信者は札幌でも大きなデパートの販売促進に長年関わってきた、高校時代からコンピューター言語を習得した理系の男です。彼の目に映る業界の機器導入時のお話です。東京オリンピックエンブレムで揺れるデザイン業界ですが、まだまだ紙と鉛筆でデザインをしていたアナログ時代を知っている知人のメールです。いづみやとは、現在のTOOという企業に。

 

私はPCに詳しいと思われていましたし、昔からデザイン事務所はPCを導入す

べきだとは言っていましたが、それは経理のため。

当時のデザイン事務所は、代理店で見積もりを下げられ、

同じ仕事の際に、前回決定した請求伝票を見ながら見積もりを出し、

そこで叩かれるという繰り返しで、利益を下げていました。

 

私はPCを使っていたので、毎回元の見積もりにあたり、

毎年の物価上昇率を掛けて出していました。

このおかげで、年々同じ仕事しかしないのに利益が増え、

半ば不労所得のようなものを得ていました。

当時は、大企業でも経理にPCを使っていたのはまれでしたので

手作業でどんなにあら捜しされても整合性のある数字を出せました。

 

当時デザイン会社は初回の見積もりから全力で利益確保しようとし、

時にはクライアントと衝突したりしてました。

気骨のある会社はそうすべきという風潮もありました。

私は後から利益を確保できるののがわかっているので、

最初はお人好しのような価格を出せました。

 

同業者には、こういう手の内をすべて明かしてPCを使うように言ったのですが

誰も耳を傾けませんでしたね。そのうちイズミヤが、デザイン処理にMACを使

わなくては時代に取り残されるというようなキャンペーンを展開し、業界はても

なくそれに乗っかりました。

 

イズミヤというのは、デザイン・印刷業界にこういうキャンペーンを展開して

大きくなってきました。最初はトレスコ。これは貢献と言ってもいいかもしれま

せん。次はコピーマシン。通常の事務所でも使わない大型コピー機をデザイン業

界に普及させました。そして最後がMACです。コピーやトレスコと違い、

一人1台の導入ですから、おそらく少なからぬデザイン事務所が立ちいかなくな

ることを織り込み済みの、焼き畑戦略だったと思います。

 

しかも本来PCとは無縁の業種なので、かなりいい加減な状態で納品されまし

た。私や友人のS君はお声がかかるたびに、あちこちのデザイン事務所にいき、イズ

ミヤが納品したシステムをチェックしましたが、ひどい時は、プロダクションに

新しいソフトウェアを「自分でインストールさせないための装置」を組み込み、

その費用も払わせていました。

 

一番デタラメだったのは、モニターのカラーチャートがなかったことです。デザ

イナーの使うケント紙は白さや明るさが、マーカー類は色あいが規格化されてい

ましたが、MACの個人用モニターには、そんなものはありません。家電店の

TV売り場で、同じ顔が赤っぽかったり青っぽかったりしてるのを見たことがあ

ると思いますが、あれと同じことが起きていました。ですから色指定の数字なん

てあってないようなもので、ものすごい色校が上がってきて、しばしば問題にな

りました。

 

ソフト自体はそれなりに細かい調整ができたのですが、デザイナーがそこまで勉

強したがらないので、MACになってから往年の名デザイナーが目を覆うような

デザインを作るようになったのは、瀬戸さんも知ってると思います。

 

ここに書いたMACがらみの珍現象は、じつは今でもあまり解決されていませ

ん。欧米では、PCはまず小規模起業の事務合理化のため、そして作業に導入す

る際は仕様の規格化を真っ先に行うことは常識です。たとえイズミヤなみの業者

がいても、すぐに合理的な提案をする別な業者が現れ、イズミヤは淘汰されます。

 

いろいろイズミヤのせいにしましたが、勉強するのがいやだからこの業界に入っ

たような人が多い以上、どうにもならなかったかもしれませんね。

 

小林

 

  1. 3mm角以上の文字はレタリングと言って面相筆と溝差し定規で描いていました。TV素材でも印刷物でも。色合わせはポスターカラーやカラーインクで微妙な混合率で再現しました。線は烏口の先を研いで繊細な線を引きました。版下文字は写植文字を薄く剥がして貼り付けました。写真もポジを添付しながらアタリを付けました。色指定YMCKは%で指定しました。色校正には製版所に立ち会いました。その場の修正指示も自ら出しました。ある時、東京の原稿に異変を見つけました。何と切り貼りのない一面の半切版の版下が来たからです。また次には写真合成や電線などの修正がされていた事でした。早速ゴルフ場のカタログに合成を依頼しました。90万~150万円かかりました。今の僕は自分でフォトショップで修正ができます。あれから20余年しか経っていません。

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