新薬・金・学会・宣伝(1月12日、3月6日掲載)
「赤い罠」(ディオバン臨床研究不正事件)
2000年11月に発売された、製薬メーカー・ノバルティスファーマが開発したディオバンという血圧降下剤の臨床実験に製薬メーカーの社員が関わっていたことがディオバン発売後、発覚。研究に従事した慈恵ハート研究、京都ハート研究の資料づくりにノバルティスから億単位の金が流れて、臨床実験をして最後のデータ解析をノバルティスの社員に作らせ、どこの薬メーカーより効果があると世界中の学会で発表した事件である。大学に研究のために寄附講座という仕組みはあるが、さすがに最後の解析は専門の研究者がするものである。
さらに「日経メディカル」の特別号で、ディオバンがいかに優れた薬で、日本での臨床実験の画期的な成果であることを対談や論文、広告で埋め尽くした医学上の大きな事件である。腐りきった医師たちのオンパレード。対談者にはたぶん相当額の謝礼がノバルティスから支払われているはずで、一度もらった金をどれだけの医師が返したのか知りたいものである。2009年にはこの薬は1400億円まで薬単体の売上を伸ばした。残念ながら、本書に引用されている、著者桑島巌さんの丁寧な資料やデータは専門家ならわかるはずが、筆者には猫に小判だ。難しすぎて素人にはわかりにくい。高血圧を上を幾ら下を幾らにするのか、それを決定する委員の医師十数人(大学教授)には各薬メーカーから億単位のお金が動いているという噂は聞く。
医者と製薬メーカー・医療器具メーカーの癒着、政治家の関与や日本医師会の関わりもぼんやり理解している。たとえば禁煙を依存症にしたのも某薬メーカーが日本医師会へ莫大な寄附金を積んだがゆえに、禁煙外来という保険適用内にしたという。それだけで国保から税金が大量に流れるわけである。薬メーカーはホクホク顔である。禁煙社会を上手に利用して一儲けをたくらんであるわけだ。
厚生労働省のメタボ外来もきっと薬メーカーや日本医師会の政治力も絡んでいるし、現在、全国で置かれている心臓マッサージAEDも器具メーカーの陰謀くさい。街中のビルというビルになんであんなに置く必要があるのか。AEDメーカーの笑いが止まらないはずだ。私も心筋梗塞で死にかけたが、救急車を呼んで動かさず、病院へ運べばいいのである。死んだら仕方がない。下手な素人が知ったかぶりで動かされて、それで死んだら殺人である。
今回のディオバンのデータ解析づくりを、ノバルティス社員が関わっていた事件は、しかし、桑島さんという人がいたから内部告発できたのであって、またその反対論文を掲載させた日本医事新報という雑誌があったから、日本医師会や厚労省を動かし、ノバルティスファーマの社員が2014年に逮捕されることなった。金銭授受をしたたくさんの医者を敵に回す論文を書くことは並大抵ではないと思う。すでに既得権を得ている人は、口も豊か、懐も豊かである。ノバルティスファーマが日本中の医師(特に大学医学部関係者)に撒いたお金は10億円以上。それで職を辞した研究者も実は多い。
この事件は「健康ブーム」、血圧が高い人へ(聞くと150くらいでも)「降下剤を出しておきましょう。この薬を止めてはいけませんよ」と医師から呪文をかけられる。(血圧降下剤は儲かる)「薬を飲まなくても、高い方が長生きするんですよ、なぜなら脳へ血液を送るためには高くないと流れませんから。降下剤はボケを早めるだけです。薬飲まずに軽く歩くだけで十分、あっはっは」という医師がいてもいいと思うが皆さんいかがお考えか?
明治や大正、昭和生まれの医師には教養人が多かった。医学系・理科系でありながら文科系の要素も混在していた。60代や70代の医者と話すと文芸や哲学の勉強をしていた医師もたくさんいる。文と理が混在している。現代は多忙過ぎる、生き方に余裕がない。「赤い罠」を読んで、疑義を提示した桑島さんへひとり二人と同調者が現れてきて日本心臓学会や日本医師会を動かしてゆく話や流れは見える本であった。ディオバンという一粒の薬のブログであるが、ほかのメーカーがその分また血圧降下剤のシェアを伸ばしている構図は変わらず、漁夫の利を得ている。調剤薬局でデパートの袋に大量の薬と湿布薬を抱える老人を見て1割負担だよね、とささやく筆者であった。