ようやく懸案の『ソラリス』読了(スタニスワフ・レム著)
ロシア(当時はソビエト)の映画監督・タルコフスキー『惑星ソラリス』を借りDVDを見たが、最初の5分で寝てしまった。1961年にポーランド・ワルシャワでレムの『ソラリス』が出版されているから、映画好きな高校生や大学生から『惑星ソラリスを見たかい?あの映画を見ないで映画は語れないよ』という人もいたほどだ。タルコフスキーの映画は1972年に製作されていた。私が読んだのはポーランド語から直接翻訳した沼野充義さん訳だ(図書刊行会)。『ソラリス』の2本目の映画は、2002年にアメリカのスティーブン・ソダーバーグ監督で作られている。
ストーリーは100年前に新しく発見された惑星ソラリスを探査をしに地球から様々な分野の研究者が向う。惑星には大きな海があって、その海の動きに知性や意志を感じられるので、彼(海)とコンタクトが取れないか地球人が様々な仮説を立て、実証し、失敗し、命を落とす。このSFは主人公の心理学者クリス・ケルヴィンがソラリスの観測ステーションに到着するところから始まる。彼には恋人のハリーという女性がいたが、謎の自殺する。しかし、ソラリスで彼女が再び現れる。ソラリスというか、ソラリスの海には人間の深い記憶に入り込み、それを現視化させる働きがあり、たえず彼女はクリスの横について離れない。翻訳では『お客さん』と表現されたり、幽霊とも。しかし、地球上にいたときのハリーと微妙にどこか違うことに主人公は気付いていく。
観測ステーションにはほかにスナウト、サルトリウスという学者もいるが、彼らにも幽霊は付いているが小説では正体を現さない。人間と異性物との接触の物語だが、果たして成功するのかどうか。異性物(他者)の意思は、実は人間が勝手に考えてることをあれこれ自分たちの都合で分析や仮定や推理をしているが、ソラリスは頓着しないで動く。ある意味、地球中心主義、人間中心主義を揶揄する議論も出てくるし、宗教問題(神のこと)にも触れる。欠陥のある神という言葉。たくさんのテーマが盛られていて、中でもソラリスが色や形を変えていったり、突然、海の中から噴出があったり、すさまじい動きの表現は読んでいて、これ自体が映画である。絶対という概念(その究極は各宗教の神)を相対化して、人間をも相対化していく文言が並ぶ。
海が人間の体を模倣、合成するという、人間にできないことをする能力を持っていることを知った。それだけではない。海は身体の原子以下の構造に不可解なーーーしかし、海のふるまいが目指している目的と、きっと関係ある—-変更を加え、身体を改良することさえできるのだ。(同著258p)
ひょっとしたら、まさにこのソラリスは君の言う神の赤ん坊のゆりかごかもしれない。---この海は君の説にしたがえば、絶望する神の萌芽、発端なのかもしれない。(335p)
人間世界を、大宇宙から俯瞰して、地上で起きる出来事を想像力を働かせて考えてみるきっかけに『ソラリス』はなり得るSFの古典中の古典である。
モスクワで原作者レムとソビエトの映画監督タルコフスキーの対談があった。完成した映画に不満のレムはタルコフスキーに『お前は馬鹿か!』と言って別れたらしい。ポーランドは何度も国を失い、国境線も変更されて、過酷な歴史を背負ってきている。映画契約が終わっているから、どう味付けしようが構わないタルコフスキーであるが、原作者から馬鹿呼ばわりされて落ち込んだと思う。
*ソラリスには、味のある言葉がたくさん出てくるので、付箋を貼ったところの特集でもブログで書く日があるかもしれない。お楽しみに。ソラリスを完読するのに40年以上かかったことになる。こういう本はけっこうあって、『カラマーゾフの兄弟』『100年の孤独』『失われたときを求めて』『魔の山』。すべて数ページは読んでいて続かない。営業と暮らしに追われて時間が取れなかった。言い訳かな。
*2017年NHK Eテレで『ソラリス』が100分で名著に取り上げられている。解説は翻訳家・沼野充義。
お昼休みの使者
なんという偶然、実はつい先日『ソラリス』を購入したばかりなのです。近所の本屋で早川書房がSF・Tシャツというものを展開(夏からずっと置いてあるのですが)していて、手に取りました。・・・・・・ので、本日の主の内容はさらりと読んで、このコメントを記しています、「味のある言葉」なんだか楽しみです。レイ・ブラッドベリ『華氏451度』は御読みですか? そちらも購入してしまったので、付箋箇所の特集ブログのときまでには読めているようにがんばります(苦笑)
seto
ほんとですね。こちらもびっくりしてます。早川版はたしかロシア語から翻訳されたものではないでしょうか?
図書刊行会版はポーランド語からの直訳で40pくらい長いことになってます(翻訳家のあとがき)。それにして
も。華氏451は映画で見ました。焚書の話でしたよね。人々が洗脳されて、本という本を焼却する仕事をする主人公が
本で目覚め、人々がそれぞれの本になり、暗唱するストーリだっと思います。マッカーシーズムへの作家の批判的な観点
から書いた本では?ジョージオーエル(動物農場)や(1984)、映画(未来世紀ブラジル)もその延長にありますが
、焚書はご存知のように秦の始皇帝や、ジュリアスシーザーのアレキサンドリア大図書館大破壊、ヒットラーもそうだし、
トランプはお札の紙は好きだが、本は読めないようですよ。だからインテリ嫌いですね。70歳を超えてますから回復は
無理です。