エゾリス 今井昇撮影

ナショナルジオグラフィック2018年2月号の特集が『脳科学が解き明かす善と悪』。タイトルに惹かれて読んでみると、大脳の部位ごとの働き・役割が出ていて、2012年12月コネチカット州の小学校で児童20人の命を奪った乱射事件や2016年6月フロリダのナイトクラブで死者49名・負傷者546人を出したISに忠誠を誓う男の乱射事件、これからも全米ライフル協会がロビー活動で国会議員に金銭を与え続ければ、銃社会は同種の継続され同種の犯罪は発生するだろう。

特集はサイコパス(精神病質者)が殺人や誘拐、性的暴行、拷問といったおぞましい行動をとる人間の大脳の中の話。昔、日本でも大脳の前頭葉手術が流行ったことがあった。攻撃性の部分を削除しておとなしくさせようとしたのだが人権意識の高い人たちの活動でいまは実施されていない。記事は『極端な利他主義とサイコパスは、人間の本能の最善と最悪な部分を表している」。

いったい、人間を善行や悪行に駆り立てるのは何なのかというのが、特集の中身であるが、やはり環境と遺伝、大脳の前頭葉の損傷など要因は限定されてくる。特に小さなころから『共感する能力をはぐくみ育てる」こと、親が子供を抱きしめてあげることが一番大切で、大脳の大きな地図を載せて、相手に共感する回路を説明。一方、殺人者は衝動的な行動を抑制する前頭前皮質の活動が異常に弱いことがMRIの検査で証明していた。

共感回路の働きが低下する要因として①脳の損傷や遺伝②恐怖や空腹、幼児期のトラウマ③戦争中のように、集団が敵対心や優越感傾向が強まると共感能力は失われる。さらに面白いのは理系の専門家(体系立てて物事を考える人)の中に,共感する反応が平均値以下が少なくない。一方、音楽家や歴史家など文系の専門家はEQ(心の知能指数)スコアは高いというグラフも出ている。しかし、文系がそうであっても、1096年(第1回)から1270年(第7回)まで約200年にわたる十字軍の残酷さを考えると文系的な宗教者が寛容とも思えないのも事実である。

『心の戦争をしている人はいつかきっかけがあれば、その戦争を外に排出する』。それが無差別殺人であったり、他者の存在を消そうとする思い込みやストーカーに発展したり、手に武器(銃・車、包丁、唾棄すべき言論、スマホ)があれば振り回す。しかし、考えてみなくても、人の心の中には、悪に傾く傾向は誰にでもあって、アメリカの実験心理や脳科学で言うようなはっきりした境界線は曖昧で、いつなんどき自分自身が変貌するかはわからない。条件さえ整えば『妬みや憎しみはすぐにやってくる」から、自身の感情を監視するもう一人の自分をどこかに置いておきたいものである。

寛容な人と残忍な人との境界は、ナショナルジオグラフィックの記事のような大脳地図によるより、もっと靄(もや)がかかっていて、明確に語れない世界だということか

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