ハインリッヒの法則 1:29:300。重大事故。
2010年6月から2012年12月まで中国駐在特命全権大使を勤めた元伊藤忠商事社長の丹羽宇一郎さんの「北京烈日」(中国で考えた国家ビジョン2050年)(文藝春秋)に紹介されていた法則だ(42p)。
2050年には世界の人口は90億人へ、日本の人口は8700万人くらい。いまより4000万人減る。年齢構成比でいくと14歳以下が8%、65歳以上が40%、合せて48%。15歳から64歳までいわゆる生産人口は52%。といっても高校生や大学生も含まれるから生産人口はもっと少ない。もともと食糧の買い付けや農業に詳しい丹羽さんだから、人口と食糧の関係についても90億人が地球規模で考えると限界ではないかと考えている。
日本の場合も、住民が減るわけだから、住み方を考えて、バラバラに住むよりまとまって住む方が電線を短くできて効率がよい。さらに今後発生する地震や火山爆発、原発事故の被害を受けにくい場所へ移動して、そこで作物を作ることも考えなければいけない。ハインリッヒの法則というのはアメリカの損保専門家が提唱した労働災害の経験則だけど、あらゆる事故にあてはまるとされている。一つの重大事故の裏には29件の小さな事故が隠れていて、さらにその裏には300件の事故寸前の「ヒヤリ・ハッ」が潜んでいるというものだ。
この「ヒヤリ・ハッ」は事故ともいえない軽微な異状な事象だ。ハインリッヒの法則が示すのは、重大事故を防ぐには、ちょっとした異状も見逃さず、対策をおろそかにしてはいけないということ。さらにこの法則の附則には「重大事故は30年に1回起きる」と。300のヒヤリ・ハッが一つの小さな事故で現れて、さらに29の小事故が一つの重大事故へつながる。そのタイムスパンが30年だと言う。スリーマイル(79年)、チェルノブイリ(86年)福島(2011年)。福島まで30年前後の時間が流れている。
なぜなのか?これは行政や技術者が傲慢になるまでの時間だと。ネグレクトはしかし、技術者だけではなく行政や企業家、マスコミもそうだ。つまるところ、事故は100%人災なのだという話だ。高速道路のトンネルも天井から地面に微量な砂利や雨漏りがしていたら要注意なように。事故は人災だと言う観点に立つと、自然災害も、被害を大きくするのは人間の技術に対する傲慢によるといえる。
この国の自然災害は1970年から1999年まで年平均40件だったのが、21世紀に入って2008年までの9年間に1000件、年平均110件と2・5倍に増えている。人災を減らすために、このハインリッヒの法則を日々の仕事の中で生かしていきたいものである。政治家やマスコミ関係者の劣化もハインリッヒの法則に当てはまるかもしれない。30年前の政治家と言えば、まだ戦争体験を重く受け止めた自民党の政治家や経済界の重鎮がたくさんいて、軍国へブレないよう微調整を裏方でしていたと思う、若手へのアドバイスを含めて。
考えてみれば、戦争に至る道も、目の前の案件(外交のトラブルが発生したらすぐに飛んで行き、相手国へ相談しに行くことの繰り返しだ)を誠実に解決し続ければ防げた戦争もあったかもしれない。人災の最大は戦争やテロだ。その中で爆撃や化学兵器使用、原爆投下などすべて人災そのものだ。
昔の少年
自然災害に人災が重なり重大な事故になってしまうケースを何度も見てきた。自然が警鐘を鳴らした時には既に遅しの感がある。札幌と近郊の高速道路も40年以上の時を経て高架部分はかなり危険だと思う。クルマのETCなど便利な機能も余り使わず、なるべく地上を走行するようにしている。JRも高架下に居ればあの轟音と地響きは半端でなく頻繁に長年通過する通勤列車や貨物列車の重みに耐えているのを見ればゾッとする。万が一の事を考えて先々まで計画する事が重要だが、便利さ優先で作られたモノはメンテナンスを軽視しがちだ。モノづくりは壊れる事を計算に入れなければならないだろう。耐久消費財にしても建築物にしても食品と同じく「消費期限」を設けるべきかも知れない。戦争にも、兵器にも「消費期限」があればいい。