「毛沢東の私生活』エピソード2

22年間も独裁者の主治医を勤めて、著者は何度も何度も辞めたくて苦しんだ。外科医を志してアメリカの大学にも留学して帰国したら、毛沢東の主治医である。「中国は世界に三大貢献をした。漢方、曹雪斧(そうせっきん)の長編小説(紅楼夢)とマージャンだ」(上116p)。私は印刷、火薬、羅針盤や紙かと思ったが毛沢東の価値観は違う。

毛が62歳のときに主治医になった著者は歴代皇帝と同じように「毛がインポテンツ治療と長命持続について新たな手をみつけるよう厳命された」。鹿の角エキスを注射したり、漢民族の始祖とされる黄帝は千人の生娘とまじわることで不老不死になった伝説やらどこかで信じていたが主治医のみるところ、インポテンツ問題を頻繁に毛沢東が口にしだした時期が実は「まるで先の見えない政治闘争に巻き込まれた時期と一致する」。「1960年代初期、主席の権力があらたな高みに達すると、インポテンツの苦情が消えうせた。・・・・むしろ連れ込む女性の数は増えていき、その平均年齢もだんだん若くなってきた」(145p)。「文化大革命の初期ほど健康だった時分はないし、それ以降の数年は上々の健康状態が続いた。

毛沢東は自分がいざ政治的攻撃の的になると、しばしばベッドに難を避けたし、また病気をよく政治操作に使い、首席の健康と中国政治はないまぜであった」。現在でも都合が悪くなると病院へ逃げる官僚や政治家、企業幹部やヤクザも多いが、時代・場所は違えどもやることは同じである。しかし、10億人を超える国のトップが政策を間違えるととんでもないことになる。実際、国の産業の基本である鉄をつくるために人民公社へノルマをかけて各地に「裏庭鋼炉」を作らせたのはいいが、鉄資源もないから農民は自宅の鍋や釜を高炉に入れて鉄の塊をつくりに熱中。地方の共産党幹部は「これだけ鉄を生産しました」と報告。おかげで農民は農業への労働ができず、とうとう飢えが始まった。

餓死者は何百万人とも数千万人とも言われてる。目標を達成するために「嘘に嘘をつくり報告した」結果、たくさんの死を招いたのである。たとえば毛沢東の乗る列車が通る田んぼには、よそから出来のいい稲を線路の脇に植え直して婦人が水田に浸かり、笑顔で手を振る光景を作為した。医師である著者は、冷たい水に浸かる女性は婦人科に良くないからそれを心配していた。もちろん食べ物が足りない農民も含めて。独裁者の横(側近や全国の党の幹部たち)には「嘘」や「数字の作為」「虚偽の報告」「部下たちの出世競走のためにするスキャンダル流し」が横行する。そして「真実が伝わらない」のである。

嘘の情報で戦争も起きる。SNSが、インターネットが世界の隅々までカバーしてしまうと同じ「嘘」が100回繰り返されると「真実」になってしまう危険性大である。自分の頭で考える習慣を、冷静な頭脳をいつでもどこでも持ち続けたいと思うこのごろだ。毛沢東の「大躍進政策」はこうしてたくさんの犠牲者を出して失敗し、主席をいったん辞任はするが、2代目の劉少奇国家主席を追い落とすために、毛沢東は「文化大革命」を起こし、紅衛兵を組織して、都会の知識人を農村へ送り込む運動を開始。全国を混乱の渦に陥れる。自分のブルジョア性を「自己批判」させる運動である。1966年から1976年まで続く。私の学生時代は「文化大革命」が真っ盛りであった。劉少奇はこんな姿にまでなってしまったのである。すべて毛沢東の画策であったかもしれない。

毛沢東の主治医『毛沢東の私生活』より。エピソード1 (3回シリーズ)

 

筆者と同年齢のロシア語通訳の故米原万理さん著『ガサネッタ&シモネッタ』に『毛沢東の私生活』(上・下)が紹介されていて、猛烈に面白いと書かれてあった。

文化大革命の提唱や都会の知識人を肉体労働させるために農村へ送ったり、後にクメールルージュも毛沢東思想を狂信して、都市の中間層を虐殺した大事件もあった。1976年9月9日午前零時10分83歳で死去した毛沢東に主治医として22年間、そばにいて、彼の不眠症や数々の不安にさいなまれる姿や孤独。真夜中でも話し相手に呼び出される主治医李志すい(リチスイ)の冷静な告白本(暴露本)である。何度も辞表を書いて主席(毛沢東)から離れたいが離れられない。

長征に加わったたくさんの同志の農民が都会に出てきて、共産党員としてそれなりの地位についてのはいいが、金と権力の快に漂い、改革への強い志が失われていくのを見て『これではダメだ』とひとり悶々する毛沢東の姿や発言が活写されている貴重なドキュメント。身辺警護のボディーガードだけが唯一の日常的な親しい付き合いの仲間であり、いずれも若く、教育のない農民出身者でおのづと対話には限界があった。そこで、『毛沢東は私を話し相手に仕立て、自分の愛読する史書や哲学書を読むようにつよくすすめて、毎週のように何時間となく私に語りかけるのであった。不眠症に見舞われると本を読んだり、会議を開いたりした。・・・・・不眠症がいつもとりわけひどくなるのは、天安門広場で行進を閲覧したり群集の歓呼にこたえなければならない国慶節とかメーデーとかを目前に控えた日々だった。・・・・毛沢東は独裁者であった。毛の宮廷で個性を発揮しようものなら、みずから災難を招くようなものだ』(120p)

22年間の主治医生活で休暇はたったの1週間の激務であった。健康診断も大嫌い、歯磨きもしない、好きな時に泳ぎ、プールだけではなくて全国の河川に飛び込みまわりをヒヤヒヤさせる。文化大革命で逮捕された江青女史は4番目の妻でずっと冷えた関係であった。アメリカとの関係も「抗日戦争中、アメリカ合衆国は延安に軍事施設団を送ってくれた。・・・・アメリカ合衆国はまた多くの熟練技術者を養成してくれた」「君たち(主治医を含めて)はみんな英米系の学校を出たんだな。私は英米両国で訓練を受けた人たちが好きだ」(140p)。

また毛沢東は、主治医から英語を学びエンゲルスの英語版を読んでいたのでもある。好きな人物は殷王朝の誅王、秦の始皇帝や唐王朝の三代目皇帝皇宗の皇后・則天武后、隋王朝煬帝(ようだい)、ナポレオンのエジプト遠征で学者を派遣することも真似ようとしたこともある。スターリンも尊敬していた。しかし、インドのネルー首相との対談で「原子爆弾など恐れるに足りない。中国には人間がたくさんいる。・・・1千万か二千万の人間がしんだところで恐れるに足りない」とネルーへ言った。ネルーは非常な衝撃を受けた。

後年、中国国内で餓死者が数百万も死んでいるのを毛は知っているのに、そんなことを少しも意に介さなかったのである。極端なことをいえば「人口の半分を失っても大きな損失にはならないという思想を持っていたのである」(172p)シリアのアサド政権や敗戦直後の本土決戦を真面目に志向した人びと、沖縄戦へ向わせた軍人たち、現在の北朝鮮の金正恩、アメリカのトランプ。大脳の働き方に共通性があるのではないだろうか。この本の1巻目は「整風運動」から「文化大革命」へ。2巻目はどうなるか。ここまで書いたからきっと亡命するだろうと予想がつくが・・・乞うご期待。この本は毛沢東の死から始まる。寝室の描写も生々しい。絶倫である。

 

金持ちのほうが物を盗む

(文明が不幸をもたらす)クリストファー・ライアンより

アメリカの心理学者ケルトナーとピフが富裕な治験者と貧しい人に次の実験をした。実験室の入り口にお菓子の入った容器を置き、「残ったお菓子は近くの学校の生徒たちに贈られます」という注意書きを添えておいた。すると、金持ちの方が子供たちに与えるお菓子を盗む割合が高かった。さらにニューヨークの精神医学研究所の研究員たちが、43,000人を調査したところ、金持ちの方が貧しい人より支払いを済ませていない商品を万引きすることが多かった。金持ちが法律上の罰則について心配していない(保釈金をすぐ払える、弁護士がいる)ことを示していると。(同著198p)

日本でも万引きがレジ袋が廃止され多くなったとニュースになるが、ほとんどが生活苦だけの観点から、テレビ特番で放映されるが、アメリカの現象を見ていると案外、富裕層の万引きが多いかもしれないと思うわけで調査する必要もありかなと思う。タックスヘイブンを利用して自分が所属する国への税金逃れをしているたくさんの富裕層は、形を変えた泥棒といえるかもしれない。自民党の派閥のパーティ券のキックバックや平気で買い物袋に札束を入れて事務所に戻る議員をみて場面を変えて、富裕層の万引きと変わらない。

考えてみると、ヨーロッパの貴族やイギリス中流階層も領民や農民・労働者から最低の暮らしを保証して、アガリを盗む暮らしをしていたと思えば、昔も今も変わらないといえば言える。なんだか悲しいような話だが、長い会社生活を送って育ちも性格も違うたくさんの人を見て、また我が身を振り返ってつくづく貧乏人に優しいのは貧乏人ではないかと実感する。私の世代はほぼ貧乏を毎日の暮らしの実感としてあるが、1970年代以降の子どもたちはどうだろうか?

貧乏を知らないことがかえって彼らの他人への思いやり度を止めているのではと危惧する。人間が幸福になるための手段としてのお金が、お金を溜めることが幸福につながるだろうと倒錯してしまった。数少ないお金持ちの知人を見ていると、友人がたくさん離れていっている。お金の使い方に感動やなるほど考えた使い方だねとか尊敬できる生き方が全然ないからだ。『お金はある意味で社会からの預かりもの』かもしれなくて、棺桶に自ら入るときにそれがわかる。賢いお金の使い方に『社会からの預かりもの』感覚が生きていれば変わる気がするがどうだろうか?あなたの周りにそういう尊敬する人がいるかどうかは、後々の人生で大きな影響を与えると思う。金持ちは2世代3世代で事業で稼いだか土地成り金や不動産でのアパート経営者が多い。インサイダー取引者もいる。共通は隠し事があるようで暗い。宝くじにでもあたってテレビ塔から1億円でも投げたらどんなに気持ちがいいだろうと想像する。